『リトル・ドリット』チャールズ・ディケンズ - 2018.01.21 Sun




『リトル・ドリット』チャールズ・ディケンズ(ちくま文庫)
中国帰りの資産家アーサーは、母親の家でお針子として働いている、か細い身体つきでひどく怯えた顔をした若き女性リトル・ドリットに会った。興味を持ったアーサーは、ある夜尾行し、マーシャルシー監獄へ入って行く彼女の姿を見た……。19世紀、華やかなロンドンの裏にひそむ悲惨な生活、社会の矛盾や不正のしわ寄せを背負いこまされる貧しい者、弱い者たちの姿を鋭い観察眼で描いた『リトル・ドリット』を全4冊で刊行する。(本書1巻あらすじより)
毎年恒例、年越しディケンズ。『大いなる遺産』『二都物語』『バーナビー・ラッジ』と来て、今年は『リトル・ドリット』に挑戦です。4巻もある……『荒涼館』並みに長い……。
と思ったら、序盤が手こずりやすいディケンズにしては最初から最後までかなりスラスラと読めました。『荒涼館』には及ばないとは言え、読んでいてずっと面白かったという点では、『荒涼館』(1巻前半がややきつい)を上回るかもしれません。やったぞ、今年は当たりだ。
あらすじは、ざっくり言えば、中流階級であるスーパー鈍感中年アーサー・クレナムと、父親が債務者監獄に閉じ込められている貧しくも若き天使リトル・ドリットの恋物語、なんでしょう。第1部である1、2巻と、第2部である3、4巻で、状況は大きく変わるのですが、それは読んでのお楽しみ、ということで。
その中で、とある悪人の行動が一貫した謎を提示しており、これがラストで登場人物間の意外な関係と共に明かされる……というのはまさにディケンズらしい推理小説。それ以外にも、いくらか死人が(事件性はないとは言え)出てきたり、色々壊れたりするので、この長さですがなかなか飽きさせません。
というか、マジで全4巻ずっと面白かったのです。キャラクター製造名人ディケンズによってえげつないほどクセのある個性を与えられた登場人物が、縦横無尽に物語の中で動き回るため、むしろこの分量でも足りないくらいです(読んでいてイライラするほど人間性に問題がある人がぞろぞろ出てくるのもいつものディケンズ)。最初は無関係だった50人くらいのキャラクターたちが、次第に様々なところで関係を持つことで、ちょっとしたサプライズのあるエンディングへと話が動いていきます。アーサー・クレナムとリトル・ドリットの関係が、ベタながらも1巻と4巻で見事に対比を見せており、このへん連載作家としてのディケンズの本領発揮と言えるのではないでしょうか。あとは訳者解説が懇切丁寧この上ないので、そちらもぜひご参照ください。
登場人物の関係が複雑に張り巡らされ、作者の掌の上で読者が楽しく踊らされるという点では、ガッツリ殺人という推理小説要素もある『荒涼館』の方が圧倒的に傑作だしオススメです。ですが、『リトル・ドリット』は分かりやすく面白いエンタメとして評価したいですね。『荒涼館』のように、登場人物大量のがっつり長編タイプのディケンズを読みたい方には大いにおすすめです。来年のディケンズも楽しみ。
今まで読んだもので順位をつけるなら……『荒涼館』>『大いなる遺産』>『リトル・ドリット』>『二都物語』>>『バーナビー・ラッジ』、でどうでしょう。
ところで、こちらのサイトで、ディケンズ長編の語句数がまとめられています。以下はそれをコピー&ペーストしたもの。
1. David Copperfield: 357,489
2. Dombey and Son: 357,484
3. Bleak House: 355,936
4. Little Dorrit: 339,870
5. Martin Chuzzlewit: 338,077
6. Our Mutual Friend: 327,727
7. Nicholas Nickleby: 323,722
8. The Pickwick Papers: 302,190
9. Barnaby Rudge: 255,229
10. The Old Curiosity Shop: 218,538
11. Great Expectations: 186,339
12. Oliver Twist: 158,631
13. A Tale of Two Cities: 137,000
14. Hard Times: 104,821
15. The Mystery of Edwin Drood: 96,178 (first 6 of 12 parts only)
このうち、3、4、9、11、13を倒したわけなので、もう怖いものはないぞ。『ドンビー父子』と『ニコラス・ニクルビー』を買える日は来るのかなぁ。
原 題:Little Dorrit(1855~1857)
書 名:リトル・ドリット
著 者:チャールズ・ディケンズ Charles Dickens
訳 者:小池滋
出版社:筑摩書房
ちくま文庫 て-2-12,13,14,15
出版年:(1巻)1991.01.29 1刷
(2巻)1991.02.26 1刷
(3巻)1991.03.26 1刷, 2002.08.20 2刷
(4巻)1991.04.25 1刷
評価★★★★☆
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