『ロウフィールド館の惨劇』ルース・レンデル - 2018.01.03 Wed

『ロウフィールド館の惨劇』ルース・レンデル(角川文庫)
ユーニス・パーチマンがカヴァデイル家の一家四人を惨殺したのは、たしかに彼女が“文字が読めなかった”からである。ユーニスは有能な召使だった。家事万端完璧にこなし、広壮なロウフィールド館をチリひとつなく磨きあげた。ただ、何事にも彼女は無感動だったが……。その沈黙の裏でユーニスは死ぬほど怯えていたのだ、自分の秘密が暴露されることを。一家の”善意”が、ついにその秘密をあばいた時、すべての歯車が惨劇に向けて回転をはじめた……。(本書あらすじより)
今年初読書ではなく、去年の12月8日に読んだ本です。感想書いていないやつがあと4冊あるんです……すみません……。
さて、泣く子も黙る名作、『ロウフィールド館の惨劇』をついに読んだわけです。英国二大現代本格女流作家の一人であるレンデル(もう一人はP・D・ジェイムズ)は、一応2作ほど読んだことがあり、最近ポケミスから出た『街への鍵』などはめっちゃ楽しめたのですが……。
結論から言うと、『ロウフィールド館』、間違いなく名作ですが、容赦のなさと読者もろとも殴り倒すかのような英国味あふれる皮肉がもうぐぇぇって感じでつらかった……これは苦手な方の英国ミステリじゃ……。
文盲(本文中の言葉)であり、かつ人間に対する温かみのある感情が一切ない女性ユーニス・パーチマンが、ロウフィールド館で働き、一家全員を惨殺するまでの物語を描く……という、ありそうでなかなかない趣向の作品です。ガチでやった『ゼロ時間へ』とも言えますが、ガチでやるとまぁつらいのなんのって。
犯人と結末が明かされているだけに、倒叙のようでもあります。また、HIBK(もし知ってさえいれば)派っぽく頻繁に挿入される、「この時○○していなかったら、彼らが死ぬことはなかっただろう」とか、「これが最後になるとは、思いもしなかったのである」とかが、またこう、つらいっていう。
何が恐ろしいって、一家惨殺の共犯である狂信者ジョーンは確実に狂人だけど、主人公ユーニス・パーチマンは最初から最後まで一切変わっていない、というところなんです。些細なところから人間が壊れていく様を描く、とかそんな生っちょろい話ではなく、そもそも犯人はそういう人間である、というどうしようもなさ。
おまけに、作者は(ユーニスに対する)読者の共感を得ようとはしておらず、むしろ読者に居心地の悪さと不快感をメキメキ押し付けてくるんですよね。文盲であるユーニスはかわいそう、とか全然そういう気持ちになりません。根本的にユーニスがやばい人間だ、としか思えないのです。だから、めちゃくちゃ読みやすいし、短いし、あっさり目の書き方なのにもかかわらず、破壊力がすごいのです。
例えば、殺されるカヴァデイル一家が、スノッブ極まりない不快さがあるとか、善意の押し売りが腹立たしいひとりよがりな上流階級だとか、そういう書き方の作品ならまだありそうですけど、そうでもないんですよね。ちょっとはそういう面もありますが、カヴァデイル家の面々はただの善良な人々でしかないんです。そこにユーニス・パーチマンが来てしまったせいで、全員死ぬことになってしまった……というあたり、もはや不条理小説に近い気さえします。
ということで、これはさすがに好きにはなれないなぁ……。以前読んだレンデル(ヴァイン)だと、『引き攣る肉』なんかもめちゃつらい方のサスペンスで、あんまり合わなかったんですが、もっと『街への鍵』みたいな健康的な(?)サスペンスのレンデルを読みたいです。
原 題:A Judgement In Stone(1977)
書 名:ロウフィールド館の惨劇
著 者:ルース・レンデル Ruth Rendell
訳 者:小尾芙佐
出版社:角川書店
角川文庫 赤541-5
出版年:1984.06.25 初版
評価★★★☆☆
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