『ジャック・グラス伝-宇宙的殺人者-』アダム・ロバーツ - 2017.12.02 Sat

『ジャック・グラス伝-宇宙的殺人者-』アダム・ロバーツ(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
遥か未来の太陽系、人類はウラノフ一族を頂点とする厳しい“階層”制度に組み込まれた。貧困と圧政にあえぐ市民の前に登場したのが、無法の父にして革命的扇動者――宇宙的殺人者、ジャック・グラスだった。彼の行くところには、つねに解決不可能な謎があった。脱出することができない宇宙の片隅にある監獄惑星、地球の重力下では持ち上げることができない凶器、どこにも弾丸が見当たらない凄まじい威力の銃撃……。哀れな囚人やミステリマニアの令嬢、太陽系一の警察官を巻き込みながら展開する、解けない謎の先にあるものとは? 注目の英SF作家が贈る、謎と冒険に満ちたSFミステリ。英国SF協会賞/ジョン・W・キャンベル記念賞受賞作。(本書あらすじより)
なかなか評判が良かったので気にはなっていたのですが、千葉読書会の課題本、ということで手に取りました。銀背を新刊で買うの初めてだな……。
読了直後は、正直そこまでもないかな、と思っていたのです。なにかもっと、どでかいサプライズが最後にあればいいのにとか、SFミステリって説明されて理解も納得もするんだけど、どうやって驚けばいいのか分からないだとか、要するに自分の中であまりはじけなかったのです。が、よくよく考えると、ここまで真っ向から「黄金時代風本格ミステリ」を意識して「SFミステリ」をやっているということが、そもそもすごいよなぁと。SFミステリ史に名を残す作品ではないでしょうか。
ジャック・グラスは宇宙中で名の知られた革命家・テロリスト。彼の関わった3つの事件では、それぞれ不可能状況としか言いようのないものが登場します。脱獄ミステリ、密室殺人……果たして各事件の真相とは、そしてジャック・グラスの目的とは?
冒頭に読者への挑戦がある通り、フェアな本格ミステリが大いに意識された、SFミステリ連作短編集です。第1話は犯罪小説風で、脱出方法のない刑務所惑星からの脱走の謎。第2話は出入りのない建物内での殺人。第3話は犯人のいない状況での射殺事件です。
いずれもSF的な方法での解決が提示されますが、きちんと伏線が提示されているのが見事。まぁ1話なんかは、伏線張ってあるのはすごいけど、いくらなんでも……みたいな真相ですが、2話なんて叙述トリック風(言っても大丈夫なはず)で面白いですよね。2話後半の論文の結びつきなんかも良いですし、3話は、まぁ苦笑しかないのですが、やっぱりフェアなのがまた律儀。
ところで、最近、ようやくSFの読み方が分かってきたような気がします。つまり、あれですよ、なんかよく分からない機関だとか道具だとか用語だとかは、背景と雰囲気づくりのために直接関係なくても大量投下されてくるので、いちいち引っかからないで無視して読めってことなんですよね!(たぶん) 自分の中のセンス・オブ・ワンダーの感覚器が根本的に機能していないので、そういう要素は無視しちゃった方が話を楽しめるような気がします。
で、そのSF的なストーリー面なのですが、2話後半から急展開、いつの間にやら少女探偵とジャック・グラスの物語に発展します。この少女探偵が、しっかりと成長する話として2~3話が描かれていたのが好印象。宇宙全体を崩壊させかねないアイテムを登場させるという、サスペンス的な意味でもSF的な意味でも大ネタを入れている割に、結構あっさりめに終わってしまうのは、作者が少女探偵とジャック・グラスの物語の方に関心があったからではないでしょうか……特に、ラストの例の急展開なんか考えると(笑)
ここまで描くなら、ウラノフとか、その手の大きな組織を「書かずに済ませる」のではなく、色々と見せて欲しかったと思ってしまうのですが、訳者の内田さんによると、まぁそういう作者のようですし、シリーズも書かない人のようなので、「好きな要素をぶち込みまくって好きに終わらせる」タイプなんでしょう。これでもか!とエンタメに振り切った良作だと思いますので、SFミステリ好きはぜひぜひ。
原 題:Jack Glass: A Golden Age Story(2012)
書 名:ジャック・グラス伝-宇宙的殺人者-
著 者:アダム・ロバーツ Adam Roberts
訳 者:内田昌之
出版社:早川書房
新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5034
出版年:2017.08.25 1刷
評価★★★★☆
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