『ドクター・マーフィー』ジム・トンプスン - 2017.11.27 Mon

『ドクター・マーフィー』ジム・トンプスン(文遊社)
アルコール専門療養所の長い一日。"酒浸り(ウェット)"な患者と危険なナース。マーフィーの治療のゆくえは――。本邦初訳。(本書あらすじより)
文遊社のジム・トンプスン、第二弾。文遊社は、トンプスンの中でも、ちょっと変化球かな?というタイプのノワールど真ん中ではない作品を紹介していく、という方針なのでしょうか。とりあえず言えることは、『天国の南』という、王道の面白さを持った、それでいてトンプスンらしい作品の後に、『ドクター・マーフィー』という異色にも程があるよく分かんない話を投入してくる文遊社はね、やばいです(褒めてる)。
アルコール依存症患者のための療養所を舞台にした普通小説。資金繰りの厳しい、閉所寸前のある一日を描いており、色々発生する割には何にも起きないので、群像劇、あるいは言うなればシチュエーションコメディに近いのだろうと思います。設定は精神病院ものに近く、これでもかと変人奇人が登場し、文字通り勝手に暴れまわるので、序盤はマジで何がやりたいのか分かりません。
ただ読み進めていくうちに、一見気難しくてむちゃくちゃに見えるドクター・マーフィーが、超絶良い人であることが分かってくるのです……っていうか良い人すぎません? トンプスンがトンプスンらしく、理想の医者を描くならこうなのかな、という。『ドクター・マーフィーの一番長い日』な話だった、というイメージ。
ラストの方で登場する別の医者との対比が実に良いんですよね。このエンディングは、めちゃくちゃかりそめの幸せっぽいし、とりあえずね!な感じはありますが(『天国の南』もそうだった)、とはいえ気苦労の多く口の悪いドクター・マーフィーにふさわしい終わり方と言えるのではないでしょうか。
……ところで、『天国の南』の時にも思ったのですが、どんなにノワールっぽくなくてもいかんせんトンプスンなので、良い話になりそうで残り5ページしかなくても、急転直下でみんな死ぬんじゃないか、みたいな不安を感じながら読むことになりません? 自分はなります。
という、なんだかふわふわした感想になってしまいましたが、やっぱりこうやってトンプスンが定期供給されるのはたまんねえな!ということは間違いないので、今後の翻訳にさらに期待しちゃいましょう。
原 題:The Alcoholics(1953)
書 名:ドクター・マーフィー
著 者:ジム・トンプスン Jim Thompson
訳 者:高山真由美
出版社:文遊社
出版年:2017.11.10 初版
評価★★★☆☆
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