『細工は流々』エリザベス・フェラーズ - 2017.09.24 Sun

『細工は流々』エリザベス・フェラーズ(創元推理文庫)
「時々、殺したくなる」くらい無邪気なお人好しだったルー。トビーは匿名の電話で、彼女が殺されたことを知り、ジョージと共に現場となった屋敷へ向かった。そこで見つかったのは、糸を使った奇妙な仕掛け。どうやら推理小説のトリックを、いろいろ熱心に練習している奴がいるらしい。はたして、その正体は? そして、事件との関係は?(本書あらすじより)
名作『猿来たりなば』が復刊されたので、それに合わせて久々にエリザベス・フェラーズのトビー&ジョージもの。やっぱフェラーズは最高だぜ!な1冊です。ジョージがひたすらにかわいい(本質的な感想)。
助けを求めてきた友人が殺されてしまったことを知り、殺人現場である屋敷に乗り込んだトビーとジョージ。いつも以上に奇人変人が跳梁跋扈し、殺人の仕掛けがあちこちで見つかる屋敷の中で、連続殺人事件が発生します。
動機も、(仕掛けなだけに)機会もふわふわとしており、誰が何のためにやったのか非常に見えにくいところを、キャラクターと頻発する些細な事件で繋げているのがうまいですね。最初から飛ばしていてずっと面白いのです。いやはや、よくもまぁこれだけ頭のおかしい登場人物を書けるもんです。クリスティーとは明確に人物描写の方向性が違いますよね。同時期で言うなら、どちらかと言うとジョージェット・ヘイヤーと同じグループ。
登場人物の関係が複雑で、実際にどういう関係かだけでなく「誰がどう思い込んでいたか」を含めて謎が解き明かされるので、事件の全体像はなかなか一筋縄では行きません。とはいえ贅肉の事件を外していくと真相自体は意外とシンプルで、このすかし方はいかにもクリスティーっぽいかも。伏線やトリックだけ見ると他のフェラーズ作品には劣るので、本格ミステリ的な驚きはやや少ないのですが、読んでいて全く不満に感じませんでした(ただ、アホなので、第二の殺人が起きた理由がちょっとよく分からんかったのは内緒だ)。
しかし一番感心するのは、探偵役が仕掛けるあの罠なのであります。罠を仕掛けたこと自体はすぐ分かるのですが、あの行為にあんな深い意味があったとは……めっちゃ笑ってしまいました。
ところで本作では相変わらず助手ジョージがひたすらにかわいいわけですが、ジョージのプロフィールが、冒頭の「正面と横からとった顔写真と指紋の記録がスコットランドヤードに保管されていた。もちろん、大勢の優れた人物が写真と指紋をとられている。」という部分にほのめかされていて興味深いです(いろいろ納得)。元ネタイメージとしては、ブラウン神父とフランボウなんでしょうか……全然役回りは違うけど。
というわけで、期せずして『猿来たりなば』『自殺の殺人』『細工は流々』と、シリーズ順ではなく邦訳順で読んでしまいました。論創の2冊も面白かったし、今後もノンシリーズ含めてどんどん読んでいきたい作家です(他のシリーズ作品もどこかが出してくれてもいいんですよ出版社さん)。未読の方はまず9月に復刊される『猿来たりなば』をぜひぜひどうぞ。論創の『カクテルパーティー』も面白いですよ。
原 題:Remove the Bodies(1940)
書 名:細工は流々
著 者:エリザベス・フェラーズ Elizabeth Ferrars
訳 者:中村有希
出版社:東京創元社
創元推理文庫 Mフ-13-3
出版年:1999.12.24 初版
評価★★★★☆
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