13の秘密
『13の秘密』ジョルジュ・シムノン(創元推理文庫)

花の都パリは、犯罪の都でもある。『13の秘密』は、探偵趣味の主ルボルニュ青年が、新聞記事などを手掛かりにいながらにして十三の犯罪を解明する連作短編集。メグレばりの心理分析からルーフォック・オルメスさながらの奇想天外推理までとりこんだ、風変わりな安楽椅子探偵譚。併せて、引退間際のメグレ警部が運河の畔で不可解な殺人未遂の捜査にあたる長編『第一号水門』を収めた。(本書あらすじより)

久々の月イチメグレ。別シリーズの連作短編集と、メグレ物長編が収録されています。
あらすじは新版のものです。というのも、旧版の『13の秘密』には書名にも奥付けにもあらすじにもメグレ長編『第1号水門』が併録されていることが書いていないんですよね。目次にだけ。新版になって書名が『13の秘密/第1号水門』になったようですが、いやほんと正解です。
というわけで別々に感想を書きます。


『13の秘密』

瀬名秀明さんによるとシムノンの13シリーズ(タイトルに「13」を冠した、それぞれ別個の連作短編集)の最初で、素人探偵ジョゼフ・ルボルニュを主人公にしたものです。10ページほどのパズル的ショート・ミステリ集で、これがもうあなた、要するにそのまんま『隅の老人』なのであった(完)。
10ページほどの短編が延々と続き、内容はデュパン、ホームズそのまんまといった感じのパズル的安楽椅子探偵なのですが、ぶっちゃけキツいのです。何の新味もありません。メグレ短編はもっと面白いので、これはもう単純に小説として短すぎるのが敗因でしょう。

主人公ルボルニュは、やたらと高慢ちきで、死体を見たことはないと称するが新聞などで未解決の事件を見るとたちまち解決し予審判事に手紙を送りつけ、さらに友人である私(語り手)に新聞を押し付け「こんなのも解決できないの? バカなの?」とひたすら煽るような、いけ好かない素人探偵であります。
要するに完全に隅の老人で、最終エピソードでルボルニュの出自が語られるところも含めて完璧に隅の老人です(隅の老人と同じく独自調査はしているっぽいのもそう)。ただ図面なしではあまりフェアではないし、あったとしても正直クオリティはそれほどでもありません。ホームズのライヴァルたちには遠く及ばないでしょう。「三枚のレンブラント」はアイデア的にまぁまぁ面白いかなとは思うけど、全体的に打率は低め。
……と思っていたら、これは本当にパズルだったんですね。瀬名秀明さんによる連載「シムノンを読む」に詳しいですが、もともとこの作品は(雑誌、書籍共に)図版付きの謎解き小説だったようです。だから素人探偵ルボルニュも「図面を読むんだ!」と連呼するのですが、創元推理文庫版ではカットされているという、実にもったいない背景があったのでした。どうせならちゃんと図面をつけて、『2分間ミステリ』とか『5分間ミステリー』みたいにして売るべきだったかも。


『第1号水門』

こちらはメグレ長編。非常に良かったです。初期メグレの中では上位だと思います。
船主エミール・デュクローの殺害未遂で事件は幕を開けます。金持ちであるデュクローは家族との折り合いも悪く、加えていかにも怪しげなデュクローは終始メグレを翻弄し続けます。果たしてデュクローの狙いとは、そして事件の全貌とは?というお話。

相変わらず発端の謎は魅力的なのですが、今回は全体的に事件も派手。事故、殺人未遂、自殺、殺人と180ページの間絶え間なく死体が登場します。正直読了するまでメグレの某有名作品の変奏パターンだと言うことに気付かなかったくらい頭がさびていました(意外な犯人とか求めてはいけなかった、当たり前だ)。メグレが結構な金持ちである船主、エミール・デュクローと会話しているだけ(捜査してない)でこれだけの迫力が生まれているんだからすごいですよね。
また酒場、船、親子というお得意のテーマがかっちりはまっていて、最後の犯人とメグレの対決までよどみがありません。自主退職一週間前のメグレの心情と、犯人の動機というか犯行に至った背景が絶妙にかぶさっているのも上手いです。

221ページのメグレの独白がこの作品というかメグレシリーズを上手く表しているので引用します。
「あそこでは第一号水門が、大きな家が、巡視船が、居酒屋が、ちっぽけなダンスホールが、彼メグレを待ち受けている。芝居の書割りというより、もろもろの存在だの匂いだの人生だのが錯綜しあった重苦しい世界であり、メグレはそれを解きほごそうとしてるのだ。彼の扱う最後の事件がこれなのだ。」

いつも以上にメグレの心情が描かれていないせいで、ある種ハードボイルドっぽさも感じます。瀬名秀明さんによる「シムノンを読む」の解説が言い得て妙なので、読了済の方はぜひこちらも参照ください。

原 題:Les 13 mystères(1932)/ L'Écluse no 1(1933)
書 名:13の秘密
著 者:ジョルジュ・シムノン Georges Simenon
訳 者:大久保輝臣
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 307(Mシ-1-2)
出版年:1963.08.16 1版
     1974.04.26 11版

評価 13の秘密★★☆☆☆
    第1号水門★★★★☆
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