誘拐されたオルタンス
『誘拐されたオルタンス』ジャック・ルーボー(創元推理文庫)

これはミステリなのか? 珍妙な事件とその顛末を書いた前作に続く傑作。哲学を学ぶ魅惑的なオルタンスはポルデヴィア公国の皇子と愛し合い、同じく同国の犯罪者である皇子もオルタンスを愛し……彼女は誘拐される! 一方ブロニャール警部はある殺害事件に挑戦する。さらわれたオルタンスは、どうなるのか? 前作で姿を消した高貴な猫アレクサンドル・ウラディミロヴィッチも健在で、やはりこの世界は珍妙極まりない!(本書あらすじより)

はいでましたよ、今年の暫定ベスト……えー、8くらい。とにかく皆さんにはぜひともこの本を読んでいただき、そして読み終わって壁に投げつけてほしいわけであります。愛すべきメタ・ミステリなのです。えーい、とりあえず読んで! 面白さの保証は出来ないけど!!
いやほんとに頭おかしいし、よくぞ出してくれた東京創元社みたいな圧倒的感謝の気持ちしかありません。『麗しのオルタンス』は、まだただの奇人ミステリというか、ある程度万人向きであったと思うのですが、『誘拐されたオルタンス』は完全に悪ふざけが過ぎていてすごい読者を選びそう……でも、俺はこの作品、好きなんだ……。

一応、殺しが発生し、それを警部が捜査し、一方で美女オルタンスをめぐって色々事件が起き、背後には隣国ポルデヴィア公国の陰謀が……という話なのですが、メインストーリーとかどうでもいいのであらすじは飛ばします。

まぁ、基本的には作者が大いに出しゃばり、読者を大いに巻き込むメタ・ミステリなのですが、とにかく破天荒すぎます。作者が作者としても作中登場人物としても出てくるのもヤバいし、前作『麗しのオルタンス』の売れ行きに関する無茶振りにも程がある編集者への手紙とかもヤバいのですが、まだ話が終わってないのに謝辞を始めた瞬間本当に頭おかしいなと思いました。で、警部が謎解きの際に、今回の事件を解く手がかりはこの小説にあったのです、というわけで最初から読み返してみると何とこんな真相が!みたいなことを言い出して、何だこれメタにも程があるぞいい加減にしろ。
そしてところどころに差し込まれる謎のミステリっぽさ。初っ端の叙述トリックも新本格好きなら知っているであろうものでからたぶん笑っちゃいますし、様々なキャラクターに頻出する〈美青年〉という言葉を利用した双子ならぬ六つ子トリックにぜひとも翻弄されてほしいのです。そして驚異の謎解きを読み、読み終わって壁に文庫を投げつけてほしいのです(これだけは言っておきたいのですが、マトモなミステリを期待するとたぶん憤死するので、怒らずに心を無にして読みましょう)。これだからウリポ(「Ouvroir de littérature potentielle(潜在的文学工房)」)は……。

一応ストーリー上の続き物ではあるんですが、作者がめっちゃ説明してくる上に1作目読んでなくても問題ないというか、むしろ読んでいても理解できないという感じなので、ぜひ『誘拐されたオルタンス』からどうぞ。そもそも8年も前に翻訳が出た作品のことなんか忘れていたって構わないわけだし……。
というわけでもう超好きなのですが、オススメはしたくない、という複雑怪奇な気持ちであふれています。オススメしていざ読ませてブチ切れられたら困るじゃないですかー、やだー、読むなら勝手に読んでー、みたいな。くれぐれも摂取は自己責任で。あとはもう三部作完結編『亡命したオルタンス』の翻訳&発売を座して待つのです。

原 題:L'Enlèvement d'Hortense(1987)
書 名:誘拐されたオルタンス
著 者:ジャック・ルーボー Jacques Roubaud
訳 者:高橋啓
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mル-5-2
出版年:2017.02.28 初版

評価★★★★★
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