紙片は告発する
『紙片は告発する』D・M・ディヴァイン(創元推理文庫)

周囲から軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った奇妙な紙片のことを警察に話すつもりだと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……! 現在の町は、町長選出をめぐって揺れており、少なからぬ数の人間が秘密をかかえている。発覚を恐れ、口を封じたのは誰か? 地方都市で起きた殺人事件とその謎解き、著者真骨頂の犯人当て!(本書あらすじより)

お久しぶりです、引っ越しと新しい仕事の準備でめちゃ忙しい吉井です。
さて、自分の好きな作家トップ5に入るかもしれないD・M・ディヴァインが新たに翻訳されたので、発売日に早速買ってきました。『災厄の紳士』の前年に書かれた後期の作品になります。もうあと未訳が2作しかない……つらい……。

ストーリーはあらすじを読んでの通り。誰からも相手にされていないような若干イヤな性格の女の子が、地方選挙に関わるある秘密を知ったことで殺されてしまうという、王道中の王道のような殺人です。かつ、ディヴァインが初期の頃からかなり関心を持っていたと思われる地方政治物でもありますね。

そもそもディヴァインは地味な英国ミステリ作家なわけですが、今作はずば抜けて地味 of 地味。狭いコミュニティの狭い職場の中で、とりたててエキセントリックな登場人物も出さなければ派手な事件も起こさずに、超丁寧に犯人当てをやろうとする、それだけなんです。まぁ、だからこそ俺はディヴァインが好きなんですけどね!!(伝われ) 実際のところ、この殺人2つだけでどうやって350ページも持たせられるのか、読み終わったにもかかわらずさっぱり分からないんですけど……これぞ熟練の技術……。
お得意の多視点を使わず、殺人が起きた後の視点は終始主人公ジェニファーに置かれています。これはジェニファーという有能で物事をよく見ている女性が、「有能な女性」というポジションへの偏見や妬みと戦う様を描きつつ、実は彼女にも見えていないものがあったということを少しずつ明らかにしたいからでしょう。ディヴァインは好感の持てる女性もイヤな女性もどちらも上手く書ける作家ですが、今回の主人公はいつもより「戦う女性」感が強いですね。

本格ミステリ的な側面ですが、はっきり言って難易度は低めです。ディヴァインを読むのはかれこれ10作目になりますが、初めて証拠(の一部)込みで犯人を完璧に指摘できました。今回ははっきりとしたミスディレクションもないですし、証拠に気付くシーンも結構直接的ですし、何より終盤に露骨なヒントがすごい勢いで出てくる上に「何か見落としている気がする……」を猛プッシュするのでさすがに分かります。もちっと頑張れたんじゃないですかディヴァインさん。

全体としては何の問題もなく面白かったとはいえ、他と比べると中……の下……か……?くらいかなぁ。他が良すぎるんですよ。とはいえこの手のド地味本格ミステリの書き手が今やほとんど紹介されていないこともありますし、もう出来が良かろうが悪かろうが喜んで読ませていただきたい所存であります、はい。
さて、前回作ったランキングをもし更新するとするなら……だいぶいい加減なランキングになってきましたが、とりあえずこんな感じで。
『悪魔はすぐそこに』>『五番目のコード』>『ロイストン事件』>『災厄の紳士』>『跡形なく沈む』>『紙片は告発する』>『そして医師も死す』>>『兄の殺人者』>『ウォリス家の殺人』>>『三本の緑の小壜』
『こわされた少年』はまだまだ大事に取っておきます。もったいなすぎるので。

原 題:Illegal Tender(1970)
書 名:紙片は告発する
著 者:D・M・ディヴァイン D.M. Devine
訳 者:中村有希
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mテ-7-9
出版年:2017.02.28 初版

評価★★★★☆
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