逃亡の顔
『悪党パーカー/逃亡の顔』リチャード・スターク(ハヤカワ・ミステリ)

包帯がとれたとき、パーカーは鏡に写っている見知らぬ男の顔をのぞきこんだ。それから、その顔に向かってうなずき、鏡の奥に写っている整形外科医の顔を見た。
パーカーがサナトリウムに来てから、すでに4週間といくばくかになっていた。来た当初は、パーカーの顔は鉛の弾を射ちこまれたがっている顔をしていたが、今では誰もわからない、まったく新しい顔になっていた。長くて細長い鼻、平べったい頬、唇の薄い大きな口、そして突き出た顎。ひびのはいった縞めのうに似た、冷たくて厳しい眼――その眼だけは見慣れたいつものやつだったが、それ以外はまったく別の顔になっていた。『人狩り』で悪の限りをつくしたパーカーは、整形して逃亡の顔をつくりあげたのである。
上出来だった。1万8千ドル近くかけただけあった。……パーカーはもう一度新しい顔に向かってうなずくと鏡から向き直り、包帯などを屑かごに捨てた。洋服もすっかり新しく着替えて、サナトリウムを出た。 それは逃亡の顔であるばかりでなく、悪の世界に生きる一匹オオカミ、パーカーの新しい冒険のための顔でもあったのだ……! 悪を悪で制する男、パーカー。ハードボイルド小説に新機軸をひらいた悪党パーカー・シリーズ第2弾!(本書あらすじより)


マケプレオーバー2000月間、4冊目は泣く子も黙る悪党パーカーシリーズ2冊目、『逃亡の顔』です。初期悪党パーカー6作品は基本的にポケミスから出ていたものも含めてハヤカワ・ミステリ文庫入りしているのですが(『死者の遺産』なんて文庫オリジナル)、なぜかこの『逃亡の顔』だけ文庫落ちしていないのです。角川文庫パーカーに並ぶレアですね、はい。

読んでみてまず思うのが、とりあえずなぜこの作品だけ文庫化しなかったのかが分かりません。特に差別的な表現があるとか内容が劣るとかいうことはないと思うんだけど……。
第1作『人狩り』で組織に歯向かい組織から追われることになったパーカーですが、今回は逃走用の顔を手に入れたところから始まります。現金輸送車強盗を仲間と共に企むも、仲間の一人の様子がおかしく……という話。

相変わらず淡々とした文体・描写や全然淡々としていないその内容がキレッキレです(話のクライマックスのひとつである現金輸送車強盗のシーンが、わずか4ページで片付くんだぞ)。ただ、『人狩り』ほどの熱がなくて、シリーズの繋ぎっぽさが感じられたのが残念。続編としての話(パーカーが顔を作る話)と、今回の強盗の話の嚙み合い方が、もうちょっと上手くいっていればよかったのに、という。
とはいえ、ウェストレイク先生ですからつまらないなんてことはもちろんないのですよ。タフさとか非情さとかはやっぱり『人狩り』には劣るかな……と思って読んでいたら、最後にぐわしっとなりましたしね、さすがだと。当時は「ハードボイルド小説の新機軸」と捉えられたようですが、今ならばノワールだよなぁ。

4部構成であり、部が変わるごとに時には大胆に話をがらっと変えてしまうのも『人狩り』と同じですが、今回は特に第3部が(ある意味)浮きまくっていて面白いですね。いわゆる「悪」側の人間なんだけど、プロというほどでもない、ぶっちゃけダメな男の追跡劇です。
なお、小鷹信光さんによる解説「人騒がせなスターク=パーカー・シリーズ」が、ポケミスの解説としては破格の12ページなのですが、これはおすすめ。1968年当時の悪党パーカーシリーズの受け取られ方がよく分かり大変興味深いです。

というわけで安定のパーカーという感じでしたが(そんなこと言っていてまだこのシリーズ2作しか読んでいないけど)、ううとりあえず3作目以降を読みたいぜ。このシリーズ、犯罪小説の中ではかなり面白いんだよな……。読んでいない人はとりあえず傑作『人狩り』を読むのです。

原 題:The Man With the Getaway Face(1963)
書 名:悪党パーカー/逃亡の顔
著 者:リチャード・スターク Richard Stark
訳 者:青木秀夫
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1021
出版年:1968.01.31 1刷

評価★★★★☆
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