人魚とビスケット
『人魚とビスケット』J・M・スコット(創元推理文庫)

1951年3月7日から2カ月間、新聞に続けて掲載され、ロンドンじゅうの話題になった奇妙な個人広告。広告主の「ビスケット」とは、そして相手の「人魚」とは誰か?それを機に明かされていく、第二次大戦中のある漂流事件と、その意外な顛末。事実と虚構、海洋冒険小説とミステリの融合として名高い幻の傑作、新訳決定版。(本書あらすじより)

登場人物一覧に不備があるため、世界大ロマン全集ではなく創元推理文庫版で読まないとダメという作品です(叙述トリック的なアレではない)。読んだらだいたい理由は想像つきますが、どこかでチェックしてみたい。
というわけで、「海洋冒険小説とミステリの融合として名高い」作品をついに読みましたよ。いや面白いことは面白いんですが、正直いま読むとそれほどでもないのかなと……。「海洋冒険小説と謎解きミステリとの幸福な結婚」と解説にありますが言い過ぎですし、人種差別的な点もやや気になります。設定と趣向は最高なんだけど。

新聞に載った謎の個人広告。「人魚」「ビスケット」と呼び合う彼らの新聞紙上でのやり取りに興味を持った主人公が調べていくと、やがて第二次世界大戦中に船の難破により2週間の漂流生活を送った4人の物語にたどり着きます。「人魚」「ビスケット」「ブルドッグ」「ナンバー4」とあだ名で呼びあった彼らに、漂流生活の中で何が起きたのでしょうか。

冒頭の個人広告欄のやり取りが一番面白い気がしますが、どうもこの部分は事実らしいですね。すごい。
それはともかく、メインは水も食料も欠乏した救命ボートでの漂流生活の描写になります。高まる緊張感、イギリス人たちの中で唯一人種が違う「ナンバー4」に対する「ビスケット」と「ブルドッグ」の高まる不信感、ボートの上での均衡を保とうと努力するただ一人の女性「人魚」、などなど、海上でのサスペンスはさすが。混血の有色人種である「ナンバー4」の態度が終始ふてぶてしいことや、「ビスケット」と「ブルドッグ」の彼に対する不満がおおむね「有色人種だから」くらいに集約されてしまっているのが、まぁこう、時代なのかな……でも戦後の作品なんだけど……。
ちなみに日本人もチラッと登場するのですが、チラッとにしては意外と重要な役割を果たすことになります。こちらもお楽しみに。

さてなんやかんやで漂流生活の全貌が明らかになるのですが、どこが謎解きミステリなんだ、サスペンスじゃないかと思っていたら……おぉぉ、最後こう来ましたか。いやね、あだ名で呼びあっていたりするところからの意外な展開もあるのですが、そうではなくて別の角度から、一気に「ミステリ」らしくなるのです。謎解きではないし、やっぱり色々古いところもあるのですが、なるほどこれは「海洋冒険小説とミステリの融合」なのでした。マクリーンなどのそれとは角度が違う、かなり個性的な作品でしょう。

総じて高評価とは言い難いのですが、創元推理文庫として復刊されるだけの価値はあったろうとは思います。この作者の作品はあと1957年に平凡社の冒険小説北極星文庫から『白い世界の魔術』という作品も出ているそうなのですが、どういうタイプの作家なのか全く想像がつかないな……。

原 題:Sea-Wyf and Biscuit(1955)
書 名:人魚とビスケット
著 者:J・M・スコット J. M. Scott
訳 者:清水ふみ
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mス-7-1
出版年:2001.02.16 初版

評価★★★☆☆
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