幻の屋敷
『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿Ⅱ』マージェリー・アリンガム(創元推理文庫)

ロンドンの社交クラブで起きた絞殺事件。証言からは、犯人は“見えないドア"を使って現場に出入りしたとしか思えないのだが……。名作「見えないドア」を始めとして、留守宅にあらわれた謎の手紙が巻き起こす大騒動を描く表題作や、警察署を訪れた礼儀正しく理性的に見える老人が突拍子もない証言をはじめる「奇人横丁の怪事件」など、本邦初訳作を含む日本オリジナル短編集。(本書あらすじより)

一週間ぶりの更新です。
さて、マージェリー・アリンガムの日本オリジナル短編集『窓辺の老人』が出たのはおよそ2年前なわけですが、ついにその第2弾が登場です。ちなみに第3弾は今月でます。今月です。何その突然のハイペース。
『窓辺の老人』を読んだ時も思ったんですが、いやぁいいじゃないですかアリンガム。前回よりもミステリとしてというより小説としてバラエティに富んでいる上に、全体的にユーモラスというか軽快で、読んでいて非常に楽しいのです。ショートショートみたいな作品も多く、アリンガムならではの切れ味を楽しめます。やっぱアリンガム好きかもしれない。長編ももっと読まないと……。
ベストは「魔法の帽子」、次点が「面子の問題」で。第3短編集を楽しみに待ちましょう。


「綴られた名前」The Name on the Wrapper(1938)
上流階級有閑探偵キャンピオンらしい、宝石強盗事件とそのツテと知識を生かした解決。推理もへったくれもないですが、指輪の件で一応伏線というか筋をつけているのが面白いかも。この手の指輪があるということは前にも何かで読んだ気がします。

「魔法の帽子」The Magic Hat(1938)
キャンピオンがもらった帽子の小物が、あちこちで謎の効力を発揮するという楽しい詐欺話。ホームズっぽい謎の出だしと、トラブルシューターとしてのキャンピオンのキャラクターが結びついた良短編です。当事者視点のホームズって感じが最高。ところでホームズはやっぱり日常の謎の創始者なんだなぁ。

「幻の屋敷」Safe as Houses(1940)
無断使用された屋敷に残されていた既に存在しない屋敷宛の便箋と、存在したり存在しなかったりする屋敷の謎。素人くさい犯罪者のいくら何でも雑なお仕事。点と点がつながると一瞬で謎が解けてしまうけど、数ある「消えた館」物の中ではマジで移動させている(婉曲)あたりがすごいです。

「見えないドア」The Unseen Door(1945)
チェスタトンのアレとアレに挑戦したかのような密室殺人事件。なかなか意外な真相だけど、でもさすがにバレるんじゃなかいかな……。ところでアリンガムはキャンピオンが真相に気付いた瞬間を前もって書かずに最後に後出しで書くことが多いので、だからどうしても本格ミステリっぽくならないんですが、これ書く順番さえ工夫すれば本格になるよね。

「極秘書類」(1940)
ブリーム社の金庫しかあけられない泥棒の企みに巻き込まれた女性をキャンピオンが救います。犯人の狡猾さと抜け目なさが印象に残る作品。アリンガムはシリーズ怪盗でも出してキャンピオンと対決させたら面白いんじゃないか。怪盗キッド的な。

「キャンピオン氏の幸運な一日」Mr Campion's Lucky Day(1945)
射殺事件の真相をキャンピオンが一瞬で見抜く、気のきいたショートショート・ミステリ。特に感想はなし。

「面子の問題」A Matter of Form(1949。1940?)
一度見た顔は忘れない男による手記。これはすごい。読んでまず思い出したのが、ネタバレになりかねないのでタイトルは伏せますがクリスティーの某長編。手記形式であるせいで、とんでもなく切れ味鋭い作品に仕上がっています。

「ママは何でも知っている」Mum Knows Best(1954)
ルーク主席警部が母親が活躍した過去の事件を団欒の場で話し、それをキャンピオンが聞いているだけ。さらにその場の別の聞き手による一人称複数の語りという意味不明に凝った構成なんだけど、特に意味はないし、ママの活躍もそれほどでもありませんでした。
実はこの形式の作品をアリンガムは何作も書いているようです。ルーク主席警部はアリンガムの後期の長編で主人公を張り、キャンピオン氏はその脇役というか手助けする人になってしまうそうです。アリンガムの長編全然読んでいないから知らんかった……。

「ある朝、絞首台に」One Morning They'll Hang Him(1950)
一見簡単に解決できるかに見える青年の伯母殺しを、キャンピオンが(ほぼ)安楽椅子探偵として解決します。なんてったって聞き込み一回で解決するからね。きちんとしたフェアな謎解き(珍しい)と、凶器を隠すなるほどトリックがなかなか良くできています。

「奇人横丁の怪事件」The Curious Affair in Nut Row(1955)
再びルーク主席警部のパブでの過去語りで、UFO目撃談を盛んに警察に通報しに来る老人の話。まさにホームズらしい謎解きが、短い中で上手く決まっていて悪くありません。

「聖夜の言葉」The Case Is Altered(1955)
キャンピオンの飼い犬ポインズの視点で語られる楽しいクリスマス譚(非ミステリ)。犬好き必読。っていうかキャンピオンはいつの間にか結婚していたのね……。

「年老いてきた探偵をどうすべきか」What to Do with an Ageing Detective(1958?)
「わたし」が語り手となってアルバート・キャンピオンについて考える作品。「わたし」というのはもちろん……。ポアロを嫌ったクリスティー、ピーター卿に恋したセイヤーズ、で、アリンガムはセイヤーズ寄りなのかな?


原 題:Safe as Houses and Other Stories(1938~1958、日本オリジナル短編集)
書 名:幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿Ⅱ
著 者:マージェリー・アリンガム Margery Allingham
訳 者:猪俣美江子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mア-12-3
出版年:2016.08.19 初版

評価★★★★☆
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