埋葬された夏
『埋葬された夏』キャシー・アンズワース(創元推理文庫)

1984年、イギリスの海辺の町で、ある少女が殺人者として裁かれた――そして20年後、弁護士に依頼された私立探偵が町を訪れ調査を始めたことで、終わったはずの事件が再び動きだす。あの夏、少女のまわりで、本当は何が起きていたのか。現在と過去の交錯する語りがもたらす「被害者捜し」の趣向、深く心に刻まれる真相の衝撃と幕切れの余韻。現代英国ミステリの傑作、ここに登場。(本書あらすじより)

いやすごい力作なんですよ。なんですけど、なんだろう、この中途半端な気分は。今度文庫化する『ハリー・クバート事件』の下位互換的な。

基本的には英国ミステリらしい過去の殺人ものです。20年前の殺人事件を再調査する過程で隠されていた真実が浮かび上がります。過去と現在が交互にカットバックで描かれるという、なるほど見たことあるような設定。
個性的なのはあらすじにもある「被害者捜し」の趣向でしょう。過去の殺人事件で誰が殺されたのかが、読者にだけ明かされていないのです。徐々に事件当日まで描かれていく過去パートを読み進めて行くことで、読者もその夏を追体験できるというわけです。

総じて面白かったのは確かです。複雑に絡み合う多数の登場人物を追いかけることで少しずつ真実を明らかにしていく過程は大いに読ませます。事件の中心となる10代の少女たちの心理描写や行動がいちいち強烈かつエグく、読みごたえもたっぷり。ラストに明かされるある点などは、意外性もキレッキレですし、それを物語全体を完結させるある種の感動に落としているところもさすがです。

ですが……何が不満かというと、例えば登場人物の配置・つながり・バックグラウンドをどんどん広げていったのに最後宙ぶらりんだったことや、被害者捜しの趣向がそれほど効果的でもないことがあります。過去パートでこれだけ登場人物を多く動かすのであれば現在にも上手くそれを絡めて欲しいですし、過去パート内でもただ人数を多く動かすだけでなくもう少し複雑な関係を見せて欲しいのです。
また、過去も現在も、明確な、あまりに強すぎる敵役がいるせいで、全部こいつが何とかしたんだろと思えてしまうのも残念。意外性も減じてしまうし、緊張感を高める上でも失敗しているように思います。現在パートで主人公である元刑事の探偵が調査により真実を見出すのも、結局この敵役ありきで解決するのであって、過去の再捜査ものとしての魅力があまりないのです。
さらに、オカルト要素という味付けも、やるならもっと徹底してやってくれないと面白くありません。現在パートに登場するある人物の生かされなさがすごい。いや別に『霊応ゲーム』みたいにしろというわけでもないですが……。

やっぱり回想の殺人テーマって難しいのかもしれません。がっつり本格ミステリとしてクリスティーのように取り組むにせよ、現代的などんでん返しの物語として『ハリー・クバート事件』のように取り組むにせよ、捜査や人間関係の描き方、その明かし方がよっぽど上手くないと、なかなか傑作にならないのかなと思います。

原 題:Weirdo(2012)
書 名:埋葬された夏
著 者:キャシー・アンズワース
訳 者:三角和代
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mア-15-1
出版年:2016.05.20 初版

評価★★★☆☆
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