宇宙探偵マグナス・リドルフ
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』ジャック・ヴァンス(ジャック・ヴァンス・トレジャリー)

ある時は沈毅なる老哲学者、ある時は知謀に長けた数学者、しかしてその実体は宙を駆けるトラブルシューター、その名もマグナス・リドルフ! 魑魅魍魎の異星人たちを相手に、白髪白鬚の老紳士マグナスの超思考が炸裂する痛快無比な宇宙ミステリシリーズがついに登場。奇習に彩られた惑星ココドでの合戦賭博を中止させるよう依頼を受けたマグナスが講じたアクロバティックな手段とは?代表作「ココドの戦士」の他、歓楽惑星のカジノ経営者の犯罪アリバイトリックを暴くために己の数学センスを駆使する「数学を少々」、閉鎖された空間〈ハブ〉で起きた殺人事件をめぐるフーダニットもの「とどめの一撃」など、ミステリからファンタジー、秘境探検に海洋冒険、さらにはハードSFまで、ヴァンスのヴァラエティに富んだ世界が堪能できる連作全10篇収録。(本書あらすじより)

はっきり言ってかなり面白かったです。ミステリとしても、SFミステリとしても、ミステリパロディとしても良く出来ているし、一編一編がアイデアの塊で楽しい短編集でした。
ジャック・ヴァンスによる、マグナス・リドルフを主人公にした全作品が収録されています。宇宙探偵……というより、トラブルシュータ―としての性格が強いマグナスが、様々な惑星に行き、もめ事を解決したり、それに巻き込まれたり、というパターンが基本。老獪で狡猾な爺(若干いじわる)であるマグナスは原則金のためにしか動かないので、依頼人の裏をかいたり、自分だけちゃっかり儲かったりするのですよね。アメリカ人は、探偵と依頼人の駆け引きを書かせれば天下一品だなぁ……(ガードナーしかりスタウトしかり)。
異星人込みのフーダニット、アンフェアな謎解きからフェアな謎解き、連続殺人に窃盗、コン・ゲーム風から冒険まで、とにかく幅広く扱っていますが、ベストは「とどめの一撃」「呪われた鉱脈」かなぁ。でも全部面白かったですよ。本格ミステリ好きとしては「とどめの一撃」は外せないでしょう。


The Kokod Warriors「ココドの戦士」(1952、酒井昭伸訳)
惑星ココドの先住民は戦いを性としており、それを見世物とし賭けをする観光業も盛んだった。モラルの観点からこれをやめさせるよう頼まれたリドルフはココドを訪れた。観光業を営む悪徳業者は、なんとリドルフの金を巻き上げた人物であった。

この短編集、原書と同じ収録順なんですが、並べ方が上手いんだよなぁ。「ココドの戦士」はこの中では一番長めで、中編くらいの量。マグナス・リドルフの性格やもめ事処理のやり方が、この1編で見事に読者に伝わります。


The Unspeakable McInch「禁断のマッキンチ」(1948、酒井昭伸訳)
スクレロット・プラネットでは、マッキンチと呼ばれる謎の生物が暗躍し、殺人・横領が問題となっていた。マッキンチの正体を探るべく依頼されたリドルフは、惑星内の局長の誰かが犯人とにらみ、順に聞き込みを始めていくが……。

様々な特徴を持つ異星人の中から犯人を見つけるというフーダニット(表紙に描かれているのはたぶんこの短編)。手がかりが読者に提示されているとは言い難いのが残念ですが、人型以外の奇妙な生物にあふれるこの世界がよく分かる、宇宙探偵らしい作品です。


The Howling Bounders「蛩鬼乱舞」(1949、酒井昭伸訳)
異様にお得な農地を買うことになったリドルフは、その星では蛩鬼と呼ばれる生物が農地を食い荒らしていることを知った。蛩鬼対策と共に、農地を売りつけた男に対して仕返しを目論むリドルフだが……。

マグナス・リドルフ vs 害虫。アクション、ホラー的な要素も含まれており、この短編集の幅広さがよく分かります。


The King of Thieves「盗人の王」(1949、酒井昭伸訳)
手癖の悪い先住民の住む惑星モリタバに商談で訪れたリドルフ。盗人の王であるカンディターと、商売敵であるメリッシュを相手に、リドルフは一計を案じる。

そもそも住民全員が盗むのが得意という惑星の設定からして最高。マグナス・リドルフの策略が見事な一作です。

The Spa of the Stars「馨しき保養地」(1950、酒井昭伸訳)
建設中は問題がなかったのに、完成した途端ドラゴンやらゴリラやらが突然襲うようになり、まったく客が訪れなくなってしまったスパ。この問題を解決するために呼ばれたリドルフは、しかし大変無礼な依頼人に対して……。

惑星の問題の解決よりも、依頼人に対するリドルフの意地悪さや腹黒さが面白いです。リドルフを敵に回すと……。


Coup de Grace「とどめの一撃」(1958、朝倉久志訳)
様々な異星人たちが訪れる〈ハブ〉で殺人事件が。〈ハブ〉に滞在していたリドルフは、オーナーの依頼で犯人探しに乗り出す。

アシモフ編『SF 九つの犯罪』にも収録されている本格ミステリ短編。消去法推理を行うための手がかりもきちんとあり、作者の様々な異星人創作力も楽しい作品です。


The Sub-standard Sardines「ユダのサーディン」(1949、酒井昭伸訳)
極上のサーディンを生み出す惑星チャンダリアのオイル・サーディン工場から出荷された缶詰に問題が。缶詰工場の労働者に変装し、リドルフは工場に潜入捜査に赴く。

潜入捜査がメインとなる、ちょっとした冒険小説です。食べられるサーディンと会話するなんて発想がどこから出てくるんだ……。


To B or Not to C or to D「暗黒神降臨」(1950、酒井昭伸訳)
4つのオアシスがある惑星ジェクスジェカの2つのオアシスでは、84日ごとに作業員や建物が全て消失するという事件が勃発していた。不快な依頼人に頼まれリドルフは調査に乗り出したが……。

ハードSF的な作品で、アイデア自体はべたですがミステリ的な設定と相まって楽しめます。相変わらずリドルフは不快な依頼人に対して厳しいのですが、リドルフに対して失礼な行動さえ取らなければマトモなんだよなぁ。


Hard Luck Diggings「呪われた鉱脈」(1948、酒井昭伸訳)
ある惑星の採鉱地では、作業員が一瞬でも一人きりになると殺害されて見つかるという連続殺人が発生し、既に数十人が殺されていた。現場監督に依頼され、地球情報庁のエージェントの代理人として来たリドルフは、意外な真犯人を指摘する。

連続殺人犯の正体が衝撃的で、これだけでも一読の価値あり。初期作ということもあり、リドルフはこの頃はまだ普通のトラブルシューターのようです。


Sanatoris Short-cut「数学を少々」(1948、酒井昭伸訳)
数学者でもあるリドルフは、大型カジノ〈不確かな運命の殿堂〉で荒稼ぎをする。そこの経営者と揉めたリドルフは、ある賭けをし、彼の犯罪を暴こうとする。

コン・ゲーム的な作風。リドルフの数学者としての側面が見られますが、前半と後半で大きく話が変わりすぎることもあり、作品としてはちょっと落ちるかなという印象です。

原 書:The Complete Magnus Ridolph(1985)
書 名:宇宙探偵マグナス・リドルフ
著 者:ジャック・ヴァンス Jack Vance
訳 者:浅倉久志、酒井昭伸
出版社:国書刊行会
     ジャック・ヴァンス・トレジャリー 1
出版年:2016.06.25 初版

評価★★★★☆
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