窓際のスパイ
『窓際のスパイ』ミック・ヘロン(ハヤカワ文庫NV)

〈泥沼の家〉と呼ばれるその部署は、英国情報部の最下層だ。不祥事を起こした部員はここに送り込まれ、飼い殺しにされるのだ。若き部員カートライトも訓練中のミスのせいでここに放り込まれ、連日ゴミ漁りのような仕事をさせられていた。もう俺に明日はないのか? ところが英国全土を揺るがす大事件で、状況は一変した。一か八か、返り咲きを賭けて〈泥沼の家〉が動き出す!(本書あらすじより)

2年前に結構話題になった英国スパイ小説です。今年このシリーズ第2作が出てしまったので、慌てて読んだという次第。いやぁ面白かったあ……話が動き出すまでに150ページもかかるくらいには展開が遅いし、動き出したからといってもなぜか全然緊張感がないんですが、作者のザ・英国人的な皮肉ユーモアまみれの文章やキャラクター、適度に複雑なプロットがそれにバッチシあっていて、何だかんだでずっと面白く読めました。これは良いぞ。

イギリスの保安局(通称MI5)の中で失敗をしたり性格に問題があったりして出世コースを絶たれた者たちが飼い殺しにされる場所、「泥沼の家」。そこで仕事をしているスパイたちは、ボスであるジャクソン・ラムのもと、みな無気力な生活を送っていた。主人公であるリヴァー・カートライトもその一人。ところがある日、テロ組織による拉致&殺害予告動画が配信され、英国に激震が走る。普段は蚊帳の外に置かれている「泥沼の家」のメンバーたちが、ついに(勝手に)動き出すことに……。

まずこの「泥沼の家」という設定が超楽しいのです。「泥沼の家」に送られているだけあって個性的にもほどがある問題児たちですが、完全にダメというわけでもなく、どこかこう、微妙な間抜けさが漂っているのが良いんです。主人公であるリヴァーの切れ者っぷりと間抜けさが完全に同居している描写とかすごくない?
で、その筆頭がボスであるジャクソン・ラム。「泥沼の家」を束ねている人物でありながら、保安局の本部に対してもいまだに影響力があり、有事ともなれば超有能スパイっぷりを示すも、普段はだらしなく性格の悪いデブおやじでしかないという。こいつが動き出した途端めちゃくちゃカッコイイんですよ……クソみたいに性格悪いくせに……。

で、その「泥沼の家」のメンバー(「遅い馬」という)が今回直面することになるのが、拉致事件、および保安局内部での抗争です。きちんと作られていますが、正直あまり凝った感じはしないんですよ。陰謀とかその解決の仕方とかも、あ、これで終わっちゃうのねみたいな結構あっさりめな解決だし、比較的予定調和ではあります。でも2つの筋がかなり良い道筋をたどるせいで、なぜか許せるんだよなぁ。それまで眠っていた「遅い馬」たちがそれぞれの持つ能力を駆使して解決を目指す有様はヒーロー物のようですらあります。最後に救出するシーンが、結局「泥沼の家」のメンバーがあの程度にしか貢献できないというのが、この話らしいというか何というか。

そして一番は、英国のお家芸であるほのかなユーモアです。これがもう最高。基本的に作者がめちゃくちゃ意地が悪いので、地の文の語り口からして既に面白いのです。ローデリック・ホーが飛ばされた理由が最後の最後にアレとかね、作者超性格悪い。個人的に最も気に入った部分が、ジャクソン・ラムのこのセリフ。


「いいか。普段は言わないことだから、よく聞いておけ」それから煙草を一服して、「おまえたちは役立たずだ。みんなそうだ」
一同は "だが" を待った。
「嘘じゃない。能なしでなければ、いまもリージェンツ・パークにいたはずだ」


というわけで、くそぅやっぱり2年前に読んでおくんだった。スパイ小説って堅苦しそう、めんどくさそう、頭痛くなりそう、みたいな人にオススメの良シリーズです。ぜひぜひ。

原 書:Slow Horses(2010)
書 名:窓際のスパイ
著 者:ミック・ヘロン Mick Herron
訳 者:田村義進
出版社:早川書房
     ハヤカワ文庫NV 1319
出版年:2014.10.15 1刷

評価★★★★☆
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