メグレと死者の影
『メグレと死者の影』ジョルジュ・シムノン(メグレ警視シリーズ)

事件の第一報は管理人からの電話だった。ヴォージュ広場に近い建物の中庭は、犯罪現場だというのに、暗がりに静まりかえっていた。管理人の案内でメグレが奥の部屋に行くと、曇りガラスに、机につんのめっている男の影が見えた。血清会社社長のクシェが胸のまん中を撃たれて死んでいたのだ。死体が金庫の扉を塞いでいたが、中から多額の金が消えていることが判明した。若い女が現れ、今夜クシェ氏とデートの約束だったと告げた。物盗りか怨恨か、まだ判断のつかないまま、メグレはまずその女から捜査を開始することにして、翌朝、女の住むホテルを訪れた……。(本書あらすじより)

創元推理文庫の創刊当時、シムノンのメグレ警視シリーズの初期作品がかなりの数収録されました。そのうち、例えば『サン・フィアクル殺人事件』などはその後も重版されているので比較的入手しやすいのですが、『怪盗レトン』など創元ではあまり重版されておらず他社から別の翻訳で出ているものは比較的入手しづらい傾向にあります。で、今回の『メグレと死者の影』は後者のパターンで、創元の『影絵のように』に当たるわけですが、この河出のシリーズ自体が入手困難ですからね……(『影絵のように』は一度神保町の均一で拾って友人に譲りました)。ちなみに創元最難関は、他社からも出ず重版もほとんどされていない、『死んだギャレ氏』『オランダの犯罪』『メグレ警部と国境の町』の3冊です、たぶん。
というわけで今月の月イチメグレですが、今回ははずれではないけど大当たりでもないかなという感じ。出だしの雰囲気・キャラの複雑な人物関係・映像的かつ本格ミステリ的な現場の状況は完璧ですが、だんだんしょうもないメロドラマに収束してしぼんでしまいました(いつものことじゃん、とか言わない)。

シチュエーションは本格ミステリ好きなら気に入りそうなものです。建物の中にいる人の動きをカーテンの影越しに管理人が大まかに見ており、その建物からの出入りは見張られており、死体の影に管理人が気付く、というもの。まぁ読んでみるとそんなにカッチリしていないのですが、やはりメグレ物は導入が上手いですね。
加えて人間関係が大変複雑。被害者の社長の元妻とその旦那が同じ建物に住んでおり、さらに被害者には現妻と愛人がおり、元妻との間の息子とその情婦も事件に関係し……とごちゃごちゃ。これらの関係が、序盤~中盤にかけてしっかりキャラを立てながら手際よく描かれていきます。メグレ物にしては珍しく容疑者がきちんと限定されているので、犯人当てをどうしても期待したくなります。

ところが、後半がどうも失速気味です。いつものように容疑者とメグレの関係を軸に話を進めようとしているのですが、読者の予想を全く裏切ってこない展開が前半と釣り合わないのです。真相は想定の範囲内というか、むしろありそうなところに着地してしまったなという感じ。
じゃあメグレらしく渋く切ない人間関係で読ませるかと言えば、こちらも中途半端で盛り上がりません。作者は愛人の踊子とメグレの会話を重視しており、彼女の境遇の描写に力を入れているのですが、途中から被害者の元妻の方に焦点が移ってしまうんですよ。設定が面白かっただけに、残念でなりません。

さて次のメグレは『サン・フィアクル殺人事件』……なのですが未所持なので飛ばして、『メグレ警部と国境の町』……も未所持なので飛ばして、『メグレを射った男』です。あと数冊読んだら手持ちのメグレ一期を読み切れるはずなので、そうなったらランク付けでもしようかなと考えています。

原 題:L'ombre chinoise(1932)
書 名:メグレと死者の影
著 者:ジョルジュ・シムノン Georges Simenon
訳 者:榊原晃三
出版社:河出書房新社
     メグレ警視シリーズ 48
出版年:1980.05.30 初版

評価★★★☆☆
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