スリー・パインズ村の不思議な事件
『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー(ランダムハウス講談社文庫)

家に鍵をかける習慣さえない、ケベック州の平和な小村スリー・パインズ。感謝祭の週末の朝、森の中で老婦人の死体が発見された。死因は矢を胸に受けたと見える傷。一見、ハンターの誤射による事故死に思えた。だが、凶器の矢がどこにも見当たらないことから、ガマシュ警部は顔見知りによる殺人事件として捜査を始めた……。「ポアロとモース警部へのケベックからの回答!」と絶賛される本格ミステリの新シリーズ第1弾。(本書あらすじより)

この本、6年も積んでいたんですよ。プロの積みラーからすれば短いでしょうが、自分にとって6年前ってまだ大学に入ってすらいないですからね。っていうか何でこれ買ったんだろう(日吉の古本屋さんで、慶應の受験の合間の休み時間で買ったというおぼろげな記憶)。
というわけで、ランダムハウス講談社文庫から4冊出ている、ルイーズ・ペニーのガマシュ警部シリーズ、またはスリー・パインズ村シリーズ第1作です。ランダムハウス講談社文庫は後にRHブックス・プラスに変わって、さらに武田ランダムハウスジャパンそのものがなくなってしまったので、当然ながら全て絶版。現代海外本格が好きな方には結構有名なシリーズです。
でまぁ読んでみたら、確かにこれは自分の好きなタイプの作品でした。アン・クリーヴスやジム・ケリーのような英国地味地味じっっっっみ勢よりは読みやすい、かつヒルやデクスターの流れを受け継いでいるような正統警察官本格ミステリ。というわけで基本的にすごく面白かったんですが、いや本当に面白かったんですけど、ラスト数十ページの失速感が非常に気になります。いろいろ投げっぱなしで、広げすぎた風呂敷を畳めずに、全部強制終了された感じ。

物語は、スリー・パインズ村というカナダの田舎での事故死に見せかけた殺人事件を、ケベック州警察の警部ガマシュたちが捜査する、というもの。都市の警察官が地方に出向く、という黄金パターンであります。ちなみにたぶんコージーではありません。

まずこの捜査陣が個性的。ガマシュ警部はチームのリーダーらしく、冷静で知的で、じっくりと人の話を聞くのが得意な、まぁ典型的なタイプです。村人とどんどん友好的な関係を築いていきます。個人や二人組の捜査ではなく、あくまでチームワークを重視して捜査を進めていきます。
さらに部下のボーヴォワール警部補はガマシュ警部とツーカーの仲。ガマシュのことを非常に尊敬しており、徹底的にサポートに回る、大変好感が持てる人物です。

と、ここまでは超王道なのですが、ここに投入されるのがイヴェット・ニコル刑事。成績優秀で、今回初めて殺人事件の捜査に関わります。だいたいこういう新人は、フロスト警部シリーズに登場するような独善的で調子こきが多いですが、ニコル刑事は正直言って見たことないタイプです。あのですね、もうね、本当にうざいんです。全く自覚のないコミュニケーション障害で、自分の欠点に一切気付かず、全て上司のガマシュ警部が悪いと決めつけます。なにこいつこわい。
で、普通こういうのって最終的に上司といがみあったまま終わろうが、とりあえずはちょっとだけでも上司を認めて終わる、みたいなのが多いじゃないですか。違うんですよ。ガマシュ警部の賢明な導きと指導と教育にもかかわらず、ニコル刑事は何も学ばず、結局捜査の邪魔となってそのまま退場するんですよ何これ。3作目(これが傑作らしい)には何とかなるらしいんですが、それにしてもこいつがこてんぱんにミスするところを見たいという気持ちで読んでいたのでフラストレーションがやばいですよ私どうしてくれるんですか。

という捜査陣。さらにかなりの数の村人が登場しますが、こっちは結構ごちゃごちゃしています。ただ、はっきりと書き分けられている主要人物はそれぞれ相当肉付けがされており、作者のシリーズを通して「村」そのものを描こうという気持ちがよく分かります。殺された、誰からも好かれている老女と、その老女の隠していた秘密、友人関係を軸に、物語は展開していくのです。
途中で殺人事件なども起こらず、なぜ老女が殺されたのか、という一点のみでじっくりじっくりと捜査が進み、比較的厚めであるにもかかわらずグイグイ読んでいったのですが……うーんこのラストはどうなんだろう。事件をかなり複雑に、大きくしていって、この当たり前みたいな着地はややがっかりかも。ニコル刑事の行く末も含めて、2作目以降に期待、というところでしょう。

というわけで、ちょっとまだ未完成かなという印象です。もう少し手慣れてくれば、複雑な人間関係と事件がうまいこと結びつくような話を書くのかなと。次作に期待しましょう。

原 題:Still Life(2005)
書 名:スリー・パインズ村の不思議な事件
著 者:ルイーズ・ペニー Louise Penny
訳 者:長野きよみ
出版社:武田ランダムハウスジャパン
     ランダムハウス講談社文庫 ヘ4-1
出版年:2008.07.10 1刷

評価★★★★☆
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