愚者たちの棺
『愚者たちの棺』コリン・ワトスン(創元推理文庫)

港町フラックスボローの顔役だったキャロブリート氏のつましい葬儀から七か月後。今度は参列者のひとり、新聞社社主のグウィルが感電死する。真冬に送電鉄塔の下で発見された遺体には不可解な点がいくつもあり、現場近くでは“幽霊”の目撃証言まで飛び出す始末。相次ぐ町の名士の死には関連があるのか。奇妙な謎と伏線の妙、個性的な登場人物、機知に富む会話……英国本格ミステリの粋が凝縮された巧手の第一長編。(本書あらすじより)

ようやく翻訳された、1950年代~1970年代に活躍した英国本格作家によるシリーズの第1作です。系統としてはD・M・ディヴァインやハリー・カーマイケルと並ぶド地味英国本格衆ですね。個人的にこれは期待せざるを得ないのです。
地味かつ古典的なトリック(意外性はあるけどパッとはしない)のザ・英国本格 in 1950s という感じですが、堅実さとこの意地の悪さがなかなか心地よく、個人的にはかなり楽しめました。もう少し見せ方を頑張ってほしいですが、それは2作目以降に期待かな。

不可解な行動の末感電死した新聞社社主の事件を契機に、パーブライト警部が捜査に乗り出します。被害者と特に関係の深かった町の名士たちにはどうやら秘密があるようで……。

登場人物全員がしっかり描き分けられているのですが、これぞ英国地方都市の悪の結集、と言わんばかりに、地方名士の闇をこれでもかと軽快にえぐりだしていくのが楽しいです。全くタイプは似ていないのですが、後のドーヴァー主任警部やフロスト警部シリーズに通じる何かを感じます。フロストの扱う事件の中流階級以上だけ抜き出したみたいな。上流階級が扱われるもあくまで身内におさまる傾向の強い黄金時代の作品とは異なり、どちらかといえばスキャンダラスな趣きがあります。
探偵役のパーブライト警部は、辛辣なコメントを交えつつばっさばっさと推理していきますが、面白い、というかこの手のミステリとしては珍しいことに、部下の警官が何人も登場するんですよね。当時のイギリスに既に紹介されていたらしいローレンス・トリートやエド・マクベインなどの警察小説の影響かもしれません(J・J・マリックが『ギデオンの一日』を書いたのもこの作品の数年前ですし)。

真相は、少ない登場人物で組み立てたわりにはかなり頑張っているとは思います(ちょっと解明が間延びしてたかな?)。伏線ばりばりって感じでもないんですが、丁寧にきっちりとミステリしながら意地悪スパイスをかけたって感じで悪くありません。おそらく今後の作品でさらに上手くなるだろうと思えるので、期待したいところ。

というわけで、シリーズ順なんか無視して、ぜひ面白いらしい4作目を早く訳してほしいです。頼む、頼むよ創元さん。帯で煽られているように「ディヴァインに匹敵する巧手」だとはどう考えたって思えないんですが、でも間違いなく層はかぶっているはずなのでもっと読まれるといいなぁ。


原 題:Coffin Scarcely Used(1958)
書 名:愚者たちの棺
著 者:コリン・ワトスン Colin Watson
訳 者:直良和美
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mワ-3-1
出版年:2016.03.11 初版

評価★★★★☆
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