通り魔
『通り魔』エド・マクベイン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

通り魔はマントのように漆黒の闇を身にまとい、路地の暗がりに立っていた。闇は男の親友、そして獲物は女だった。が、この通り魔は変わっていた。女を襲ったあと被害者にこう言うのだ。「クリフォードはお礼をもうします、マダム」捜査を開始した87分署の刑事たちを嘲笑うかのように不可解な通り魔は犯行を重ね、やがて事件は殺人へと発展した! 大都会の犯罪を追う警官たちの悲哀を見事に浮き彫りにしたシリーズ第2弾。(本書あらすじより)

マクベインの87分署シリーズと言えば、複数の刑事が捜査にあたる警察小説というジャンルを確立したということで有名です。自分も読んでいないわけではないのですが、既読がシリーズ56作中、
1作目『警官嫌い』
43作目『寡婦』
49作目『ビッグ・バッド・シティ』
53作目『歌姫』
という、何だその後期つまみ食いはという感じなのです。ところが先日の千葉読書会で、ミステリファンの大先輩の方々から「87分署シリーズは14作目の『クレアが死んでいる』までは読むべきだ」と言われたので、こうしてなるべくシリーズ順に読んでみようじゃないかと手に取った次第。気が向いたらちょっとずつ進めていきます。

というわけで、シリーズ2作目『通り魔』。マクベイン読むの6年ぶりですよ。
連続通り魔事件を核に話が進んでいくのですが、やっぱり面白いですねマクベイン。めちゃくちゃ安定しています。
複数の警察官による捜査、というシリーズの特徴が如実に出た作品だと思います。第1作『警官嫌い』であれほどまでに主人公然としていたスティーヴ・キャレラは、2作目『通り魔』ではほぼ登場しないのです。かなり思い切った決断だと思いますが、こういうところを見ても警察小説における87分署シリーズの功績が大きいことが分かりますね。

色々と個性的な刑事が登場しますが、今回特に焦点が当たるのはパトロール警官のバート・クリングでしょうか。通り魔事件ではなく、旧友の娘の死亡事件を、その母親に頼まれて、警察組織とは関係なく独自に捜査することになります。上層部から怒られたりするところなど、私立探偵っぽさもありますね。後に婚約者となるクレアとの出会いも描かれています。この娘の事件はあくまで本筋である通り魔事件とは無関係なのですが、犯人の意外性といい捜査過程といい、かなりよく出来ていると思います。
一方、通り魔のキャラクターも個性的。女を襲うたびに「クリフォードはお礼をもうします、マダム」とのたまう彼は何者なのか。こちらは複数の刑事が集中的に捜査を行い、おとり捜査も使われるなど、組織的な様が描かれます。ただし犯人を捕まえたら終わりですので、ちょっとオチの魅力に欠けるのですが、それをバート・クリングの捜査する別の事件が上手いこと補っているのです。

というわけで、もうこれ職人芸ですね。後期のように長くもなく程よい分量で、田中小実昌さんの軽快な訳もぴったり。『警官嫌い』の警官殺しのような派手さはありませんが、堅実な警察小説として満足できます。

原 題:The Mugger(1956)
書 名:通り魔
著 者:エド・マクベイン Ed McBain
訳 者:田中小実昌
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 13-2
出版年:1976.04.30 1刷
     2007.05.15 16刷

評価★★★☆☆
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