ウィルソン警視の休日
『ウィルソン警視の休日』G・D・H・&M・コール(論創海外ミステリ)

スコットランドヤードのウィルソン警視が検証を重ね事件の謎に迫る。「クイーンの定員」に選ばれた傑作短編集88年の時を経て遂に完訳!(本書あらすじより)

念願の初コール夫妻。『百万長者の死』は絶賛積ん読中です。
結構期待していたのですが……う、うーん、ひっじょーに合わなかったのでした。読んでみた印象としては、コール夫妻は短編より長編向きの作風なのではないかと思います。後出し手がかりのオンパレードで、地味なのは良いとして雑なのは微妙。持ち味らしいユーモアも短編では発揮されず、これといって好みなところがありません。
純粋な本格として評価するとかなり厳しいので、ではフレンチ警部と比較されることも多いウィルソン警視の捜査ものとして読めるかと言えば、これまた緻密さのかけらもないざる捜査なのでそうでもなく、風刺とかユーモアの点でもぱっとせず、えーなんでだろう、なんでこんなに楽しくなかったんでしょう。

解説の褒め方も苦しい気がするのですが、ネット上の感想を見ると好きな人は好きっぽいので、うーんよく分かりません。ベストはとりあえず最後の「消えた準男爵」。とりあえず『百万長者の死』をちゃんと読むまでコール夫妻の判断は保留ってことで。それにしてもこういうの読むと、マージェリー・アリンガムの短編集『窓辺の老人』がいかにクオリティが高かったのかよく分かりますね……はやく第二短編集出てくれ……。
以下個別の感想。なお、この短編集について、およびウィルソン警視が警察をやめるタイミングと短編の発表年についてなどは、閉鎖してしまったサイト「風読人」さんの中の、クイーンの定員の個別ページからこちらをご覧になるとよいです。


「電話室にて」In a Telephone Cabinet(1923)
ウィルソン警視が通りがかった家から、死体を見つけたと叫ぶ男が出てきた。
密室状況での不可能犯罪で、なかなかえげつない物理(というか工作)トリックが登場して面白かったです。家の中にある電話室 telephone Cabinet ってのが思ったより大きい気がするんだけど、読み間違えているのかな。

「ウィルソン警視の休日」Wilson's Holiday
田舎で休暇中のウィルソン警視が見つけた奇妙なキャンプ場。調べていくと自殺らしき死体が。
表題作だがこれは厳しいかも。全体的に犯人の雑さがどうしようもないし、証拠も後出しな上に不足気味で微妙。また犯人のアリバイを指摘するわりには、事前にアリバイをしっかりアピール出来ていません。

「国際的社会主義者」The International Socialist
壇上で演説する社会主義者が銃撃され死亡、撃った男はその場で名乗り出た。しかし事件はそう単純ではなく……。
撃った男の扱いが酷いし、降ってわいた犯人に苦笑するしかありません。弾丸の行方の謎を扱いたかったんでしょうが、仮に本格じゃなく捜査ものにするならするでちゃんと見せて欲しいです。容疑者と目される男の動きの偶然要素もダメだし、あらが目立つなぁ。
なお、この短編からウィルソン警視は警察をやめ、私立探偵となっています。

「フィリップ・マンスフィールドの失踪」The Disappearance of Philip Mansfield
ウィルソンに仕事の詐欺行為の調査を頼んでいた男が失踪した。
出来の悪いホームズみたい(っていうかやっぱりホームズって面白いんだな)。後から後から新情報が出されます。事件解決後、起訴するところまで色々やるのが元警視のウィルソンらしいところなのかもしれませんが、そのために自白をかき集めたりして事件を説明させるのはテンポ悪いですし、起訴までやるのはあまり得策とも思えません。不法侵入など私立探偵らしいウィルソンを見られたのがまぁ収穫といえば収穫でしょうか。

「ボーデンの強盗」The Robbery at Bowden
ウィルソンの姪の旦那が、会社の金を盗んだ容疑で逮捕された。
ウィルソンが疑いを晴らしていく過程はかなりしっかりと理詰めで進められるので悪くありません。難易度が低すぎ?

「オックスフォードのミステリー」The Oxford Mystery
親友を殺した疑いで、インド人とのハーフの学生が逮捕された。彼はかたくなに沈黙を守ろうとするが……。
黄金時代でしか許されないような古典的トリックですが、正直あんまりわくわくしないのはなぜだろう。当時のインドの見方がうかがえます。
というか、このタイプの「べたな」トリックを、ここまでべたに使っているのを読んだの、もしかして初めてかもしれません。

「キャムデン・タウンの火事」The Camden Tower Fire
決算日目前、金欠不足だった男の家から不審火があがり、死体が発見される。
いつの間にかウィルソンが警視復帰。トリックらしいトリックもなし。後から後から新情報を出すのいい加減にして欲しいです。相棒の医師のヌケサクぷりがだんだん鼻についてきました。

「消えた準男爵」The Missing Baronet
爵位を継ぎ遺産も得ていた若き準男爵が行方不明になった。
事件背景の説明がやや負手際で分かりにくいのですが、トリックや謎解きはこの短編集の中では一番良かったです(フェアってほどでもないけど)。ただ動機を金とするとちょっと矛盾が生じるんじゃないかという気もします。

原 題:Superintendent Wilson's Holiday(1928)
書 名:ウィルソン警視の休日
著 者:G・D・H・&M・コール G. D. H. & M. Cole
訳 者:板垣節子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 163
出版年:2016.01.30 初版

評価★★☆☆☆
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