港の酒場で
『港の酒場で』ジョルジュ・シムノン(旺文社文庫)

六月のある朝、メグレのもとに教師をしている旧友から一通の手紙が届いた。港町フェカンでトロール船の船長が殺され、教え子の電信係が犯人にされたという……。真相の究明を依頼されたメグレ。人間心理の微妙なひだに分け入り、メグレの推理はいよいよ冴える。鬼才シムノンのメグレ・シリーズ、本文庫第三弾。(本書あらすじより)

月イチメグレ、せっせと(手持ちの中での)シリーズ順で読んでいますが、いちおうシンジケートの瀬名秀明さんの連載「シムノンを読む」を追いかけよう、という目標があるわけです。あちらは全作読んでいますけど、こちらは古い創元のレア本なんかは持っていないので、いずれ追いつくはずなのです。はずなんですけどね、計算上は。でもいま長編11作分離されているんですよ。なんでってそりゃあこっちがちゃんと毎月読んでいないからなわけで(以下略)

……というわけで、旺文社文庫のメグレから『港の酒場で』です。「“げん”が悪く、異様な雰囲気に包まれていた3か月の航海で一体何があったのか?」というホワイの謎だけで最後までもたせた長編なのに、これがなぜか面白かったのでした。もちろん本格ミステリではありません。メグレが一種の私立探偵的な役割を果たすのが興味深い作品です。

3か月の遠洋漁業からの帰港直後、船長を殺したという電信係の無罪を、旧友からの頼みに応じてメグレが証明することになった。その航海はとにかく事故や不運が続き、船長・電信係・機関長が異様な対立を見せる恐るべきものだったようだ。果たして彼らの確執はなぜ殺人に至ったのか?

中盤までは容疑者として逮捕されている青年ピエールとその婚約者の関係、殺された船長ファリューの女関係があっさりと、しかしピエールの苦悩をしっかりと絡めながら描写されていきます。ピエールの婚約者マリを気に入ったメグレが、ピエールの若者らしい悩みを聞き出していくところなど上手いです。
しかし船員たちが一向に話をしたがらないので、船上での出来事は分からないまま。そこで終盤、メグレは一人船に乗り、何が起きたのかをひたすら想像で再現し、真相にたどり着こうとします。このシーン(9章)が秀逸で、物証より心情を重んじるメグレらしい場面だと思います。

捜査で浮上する船上の緊張感が肝で、あとはもう真犯人とか本当にどうでもいいんですが、今回のメグレはあくまでピエールの釈放にのみ尽力するんですよね。初期メグレは基本的に法に忠実な人物で、むしろ厳しく当たることも多いのですが、非公式、あるいは単独捜査の趣きが強い場合はかなり自由な采配をしつつ、悩みながら自らのうちに真相を秘めておくこともあります。今回も公的な捜査員としての役割を強調しない存在であるのが、ラストの畳み方に上手くつながっているのが好印象でした。

まぁぶっちゃけこの程度で釈放されていいのかよ……と思わないでもないんですが、メグレ、というかシムノンにまともな展開を期待してはいけないのです(なんじゃそりゃ)。シムノンは何だかんだ言っても巧い小説家なんですよね。……けど、あんまり他人にすすめる気にもならないのはなぜなんだろう。

原 題:Au rendez-vous des Terre-Neuvas(1931)
書 名:港の酒場で
著 者:ジョルジュ・シムノン Georges Simenon
訳 者:木村庄三郎
出版社:旺文社
     旺文社文庫 610-3
出版年:1977.09.20 初版

評価★★★★☆
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