カクテルパーティー
『カクテルパーティー』エリザベス・フェラーズ(論創海外ミステリ)

イギリス、ロンドン郊外の小さな村。平穏な日常に忍び込む殺人事件。元女優、大学講師、医師、作家。犯人は誰だ。ミステリ本格黄金時代イギリス女流作家の巨匠、本邦初訳の代表作が今!(本書あらすじより)

フェラーズは、トビー・ダイク&ジョージのシリーズを2冊読んだだけなのですが、かなり好きな作家(『猿来たりなば』はめちゃくちゃ楽しい本格ミステリで、海外ミステリを読みなれていない人には最適の作品なので、読んだことない人はなるべく事前情報なしでさっさと読もう)。今回論創でノンシリーズが出たのでさっそく読んでみました。なお、今月もまた1冊出ましたね、すごいペース。
シリーズ作品とは違い、ユーモアが抑えめの、どろどろしそうな人間関係で読ませるタイプの作品です。誰が殺されるか(または殺されるはずだったのか)読者にしぼらせないところから始まって、登場人物全員に好感が持てない自己中を配し、あいつが犯人に違いないとどいつもこいつも告発しまくったあげく、最終的に探偵役すら曖昧なままラストに突入するというすごい作品。えらい、フェラーズがんばった。
事件自体は会食で全員が同じものを食べ殺人事件が起きる、という数あるミステリのパターンですが、この種の殺害状況は初めて読んだかもしれません。非常に魅力的な毒殺なので、これだけでも一読に値します。終盤少々やり過ぎな嫌いはありますが、これはこれで面白いのでおすすめかな。

小さな村で骨董品屋を営むファニー。ある日彼女の年の離れた義理の弟が婚約したことで、狭いコミュニティに動揺が走る。緊張感漂う中、婚約者の紹介を兼ねたカクテルパーティーで隣人や友人が一堂に会した。そしてパーティーの後で、一人の人物がヒ素により死亡してしまう。

自分はまずこの殺された人物すら意外でした。パーティーの参加者全員がロブスターパイを一口食べ、味がおかしいと言ってそれ以上食べなかったのですが、唯一おいしいと言って食べ過ぎた人物が死ぬ、という状況。その人物はなぜ味に疑問を持たずにパイを食べたのか、というのがまず発端となります。
この理由は、まぁそれしかないなという当然の答えなのですが、別のある人物の発言により事件の複雑さが一気に増してから面白くなるのです。自己中心的な登場人物たちの間を視点が頻繁に行き来し、お互いの思惑が次々と明かされる(ただし地の分ではなく、発言で、というのが上手い)ことで、複数の動機が提示されていきます。個人的にはファニーのイヤ~なキャラ造形が何とも……女性作家はこのへん強い……。

そして登場人物たちが好き勝手に(というかヒステリックに思い込んで)誰かを殺人犯だと名指しし、それを聞いた別の人物がいやきっとあいつが犯人だと名指しし、と次々と思いつき推理を示していく推理リレーが非常に個性的ですし、また巧みです。これによって最終的に探偵役すら曖昧になり、真犯人の意外性にもつながっています。
もうこれ全員怪しいじゃん、となったあげく、ある人物がようやく真相を提示するのですが、そこまでの過程がまた作りこみまくっているんですとね。ちょっとくどいというかしつこいのですが、それがまたとっても楽しく読めました。動機の引っ張り出し方なんかは古典本格らしくて好み。

『自殺の殺人』もそうですが、フェラーズは事件や過程や終盤をめちゃくちゃこねくり回しても、それを最終的にストレートに上手く解き明かし、説明できる作家なんでしょうね。綺麗にはまるとすごく面白いんです。トビー&ジョージシリーズのユーモラスなフェラーズしか知らない人には、最適のノンシリーズ作品ではないでしょうか。
なお、横井司氏による解説がフェラーズの作風についてめっちゃ詳しいので勉強になります。『私が見たと蠅は言う』の翻訳にまつわる話とか。


原 題:Enough to Kill a Horse(1955)
書 名:カクテルパーティー
著 者:エリザベス・フェラーズ Elizabeth Ferrars
訳 者:友田葉子
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 165
出版年:2016.02.29 初版

評価★★★★☆
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