裏窓
『アイリッシュ短編集3 裏窓』ウィリアム・アイリッシュ(創元推理文庫)

ヒッチコック監督の映画化であまりにも有名な「裏窓」の原作を筆頭に、卓抜なアイディアの「じっと見ている目」、恐怖ショート・ショートの佳編「だれかが電話をかけている」、珍しい密室ものの中編「ただならぬ部屋」、傑作ファンタジー「いつかきた道」ほか、「死体をかつぐ若者」「踊り子探偵」「殺しの翌朝」「帽子」と、粒揃いの名品9編を収めた。(本書あらすじより)

(2015年に読んだ本の感想になります。書きそびれていました)
アイリッシュ/ウールリッチは基本的に年一冊ずつ読んでいますが、短編集は初めてです。
1つ1つ個性的で、読んで数ヶ月経ったものですらよく覚えている、というような短編集でした。ユーモラスなものからファンタジー、人間の隠された狂気を描いたノワールから密室殺人まで、とにかくバラエティに富みますが、アイリッシュの本領は「事件の捜査」なんじゃないかと思います。
ベストはアイデアの秀逸さが光る傑作「じっと見ている目」ですが、代表短編であろう「裏窓」「ただならぬ部屋」も十分に面白いです。その他では「殺しの翌朝」の発想もいいですね。アイリッシュは短編でも、サスペンス下の状況を作るのが上手いんだなぁ……。おすすめです。
以下、収録短編の個別感想です。なおせっかくですので、以前作ったアイリッシュ/ウールリッチの邦訳短編集の比較表を載せておきます。こちらをご覧ください。雑誌収録短編なんかもいずれ追加したい……。

「裏窓」It Had to Be Murder(Rear Window) (1942)
裏窓からいろいろと目撃する話。
映画未視聴。1942年の短編で、『幻の女』とか書いていたキレッキレの頃の作品。ずっと郊外の一軒家の2階の窓から何かを目撃する話かと思ってたんですが、普通にニューヨークのアパートでした。そりゃそうだ、アイリッシュなんだし。
主人公は足が不自由で動けないのですが、結構積極的な休養中の刑事。自分が目撃したのが殺人かもしれない、ということに主人公が気付くまでが遅いのです。この気付きの遅さがテーマの1つになっていて繰り返し出て来るのですが、当然読者は早々と気付いているわけで、このズレにサスペンスが生まれています。
主人公が死体の隠し場所を気付くとこなんかは完全に本格ミステリでやだもーアイリッシュさんったらーという感じ。サスペンスの古典中の古典で、ベタの域をどこまでも外れないんですが、その安定さが良いのです。不安を煽りすぎないところも良いですね。そしてやっぱりメインは夜のニューヨーク。

「死体をかつぐ若者」The Corpse and the Kid(1935)
義母を殺した父親を救うため、息子は死体を隠そうと奮闘する。
奮闘したことで思いもよらない結果が引き起こされるのですが、この毒っ気のなさが読んでいて清々しい作品。車(ロードスター)の補助席ってどういうもんなんだろう……助手席ってことだよね……?

「踊り子探偵」Dime a Dance(1938)
踊り子連続殺人犯に親友を殺された踊り子ジンジャーは犯人を見つけられるのか。
ジンジャーのすれた口調の一人称で、狂った殺人犯、および刑事との淡い恋愛が描かれます。サスペンス味溢れつつも最後の一言が美しい読み心地のよい良短編。
なんかさぁ、貧しく哀れなんだけど、でも強気で一生懸命なジンジャーが、刑事とツンデレな恋に落ちるわけですよ。どんだけロマンチックなんだよっていう。やっぱりアイリッシュは夜の都会の恋とサスペンスを書かせると圧倒的です。

「殺しの翌朝」Morning After Murder(Murder on My Mind)(1936)
刑事のマークはその朝発見された殺人現場へと行く。しかし景色に違和感を覚えたり、なぜか隠されてた証拠品をあっさりと見つけたりと妙なことが相次ぎ……。
このテーマを恐怖より寂しさで締めるのがアイリッシュ。ほのめかしの積み上げが抜群にうまいです。

「いつかきた道」Guns, Gentlemen(1937)
スティーヴンは自分とそっくりな、若くして亡くなった肖像画の先祖に憧れていた。
幻想的でファンタジックな短編。アイリッシュこんなのも書けるんだなぁ。ラストに現実と幻想が混ざり合っているんだけど、このあといったいどうなるんでしょう。

「じっと見ている目」The Case of the Talking Eyes(1939)
全身麻痺のためまばたきしか出来ない老女が、息子を殺そうとする嫁の計画を耳にしてしまう。
すごい、ど傑作です。オールタイムベスト短編に入れてもいいくらい。
アイデアがお見事という他ありません。息子を救うべく目だけで奮闘する母親の努力と、嫁の清々しい悪女っぷりがすさまじい。あとはぜひ読んで確かめてみてください。

「帽子」The Counterfeit Hat(The Singing Hat)(1939)
帽子を間違えて持って帰った男は、中から大量の偽札を見つけてしまった。
警察官の捜査小説。ひねりなどはありませんが、アイリッシュお得意のわずかな手がかりから犯人を追跡する様を楽しめます。
アイリッシュって倒叙とかを書くのめちゃくちゃうまいかもしれないですね。犯人の残した手がかりを警察官がたどるのを書くのが抜群に良いです。

「だれかが電話をかけている」Somebody on the Phone(1937)
誰かからかかってくる電話を恐れる妹を見て兄がとった行動とは。
ショートショート。あらすじにあるようなホラー的なものではなく、むしろノワール的。悪くはないのですが、個人的にはもう少し書いて欲しかったかなと。

「ただならぬ部屋」Mystery in Room 913(1938)
セント・アンセルムホテル913号室に泊まった客が飛び降り自殺をする事件が3回起きた。ホテルの保安係ストライカーは自殺と決めつける刑事に抗い独自の捜査を始める。
アイリッシュの代表短編(中編)と言っていいでしょう。「九一三号室の謎」のタイトルで他短編集にも収録されています(集英社文庫の『ホテル探偵ストライカー』はこんなタイトルなのに、ストライカーが出る作品はこれしかないっていう)。
密室下で自殺をさせるトリック、その犯人あてとして、まず文句無しの出来と言ってよいと思います。最後めちゃくちゃ強引にひとつ(もしくはふたつ)辻褄を合わせている雑さは、まぁアイリッシュらしいから許します。某探偵漫画の某トリックは、これを現代化させた内容と言えるかも。
ただ面白いのは、他の短編と同じく、謎解きよりも捜査を重視している点。殺人だという主張を全く相手にされなかったストライカーが、執念でもって事件を解決しようと孤軍奮闘する様の方が印象に残ります。ちなみにフィニイと並ぶ高層ビル短編ミステリでもありました。
ちなみに、このセント・アンセルムホテルとは、もちろんコーネル・ウールリッチの連作短編集『聖アンセルム923号室』の舞台と全く同じです。当時アイリッシュがホテル住まいをしていたことが元となっています。

原 題:Somebody on the Phone and Other Stories(1935~1942、日本オリジナル短編集)
書 名:アイリッシュ短編集3 裏窓
著 者:ウィリアム・アイリッシュ William Irish
訳 者:村上博基
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mア-1-7
出版年:1973.03.30 初版
     1985.07.05 15版

評価★★★★☆
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