夏に凍える舟
『夏に凍える舟』ヨハン・テオリン(ハヤカワ・ミステリ)

エーランド島に美しい夏がやってきた。島でリゾートを経営する富裕なクロス一族の末っ子ヨーナスは、海辺で過ごす二年ぶりの夏に心躍らせていた。しかしある夜、ボートでひとり海にこぎだした彼の目の前に、幽霊船が現われる。やっとのことで陸に戻ったヨーナスは、元船長イェルロフのボートハウスの扉をたたく。少年から話を聞いたイェルロフは、不吉な予感を覚える……。一方その少し前に、復讐を誓うある男が島に帰りついていた。記憶と思いを丹念に描き上げた、エーランド島四部作をしめくくる傑作ミステリ!(本書あらすじより)

ヨハン・テオリンのエーランド島4部作、ついに完結です。4部作と言っても別にどこから読んでも問題ありません。
テオリン、実は1作目の『黄昏に眠る秋』を読んでいないので全く偉そうなことを言えないのですが、2作目『冬の灯台が語るとき』、3作目『赤く微笑む春』を読む限りではかなり好きな作家です。スウェーデン作家なので当然スウェーデン・ミステリであり、いわゆる「北欧ミステリ」にくくられることが多いと思うのですが、たぶん日本におけるテオリンのファン層って北欧ミステリ層というより英国ミステリ層なのではないかと思います。北欧ミステリにありがちな社会問題を扱ったシリアスで暗く重い作風とはかなり異なり、視点人物を切り替えながら地味~に事件の様子が徐々に描かれていくタイプの本格(寄りの)ミステリ。アン・クリーヴスやジム・ケリーなんかの系列です。
加えてテオリンが独創的なのは、ストーリーの中にスウェーデンの伝説など、民俗学的な要素が入り込むことです。要するに幽霊などですが、超自然的な要素が物語の中に少しだけ含まれているという特徴があります(ホラーミステリみたいのとは違いますよ、あくまで少しだけ)。テオリン氏は先日翻訳ミステリー大賞シンジケートの授賞式で講演をなさったので、そちらのレポートなどを探せば詳しい作風や創作方法が分かると思います。自分は行ってないんですけどね……。

さて、前置きが長くなりましたが、エーランド島4部作は、スウェーデンの西に浮かぶ島を舞台にしたシリーズの最終作ということになります。なおなぜシリーズなのかというと、毎回探偵役……というほど物語にはかかわらないのですが、島に住む老人イェルロフが謎解きを行う者として登場しているからですね。
あらすじは最初にある通り。前作までとは異なり、観光客が多数訪れており彼らが事件の中心となること、やや事件が社会問題的(っていうの?)なところがありますが、基本的にはいつも通り過去の因縁がきっかけとなり事件が生じ、また幽霊話が少しだけ登場します。

いつも以上に明確な事件が起きないこともあって主軸がやや曖昧(というか地味)になるかと思いきや、現在と過去に何があったのかというホワイダニット的な面白さもあったのが意外。物語のカギを握る重要人物(確実に殺し屋級の危険老人)「帰ってきた男」が何かを企んでいることが常に描かれていますが、彼についての意外な展開も複数しこまれており、随所で驚きました。うーんなんだこのテオリンの良い仕事は……。
また今回は幽霊話もかなり面白いです。イエルロフが若かった頃、埋葬を手伝ったときに、埋めたばかりの棺からノックする音が聞こえた、という話。このことが、今回の「帰ってきた男」の事件にも結び付いているのですが……ノックの正体は、読んでのお楽しみということで。

という感じで、相変わらずのじっくり読ませ、適度にミステリもしている作品でした。分厚いわりにはあまり苦も無く読めるのが不思議。殺人事件の調査、というより、エーランド島で暗躍する悪人たちが何をしようとしているのかを読んでいく、という話であることと、観光客など外部の人が多くやや雰囲気が違うことで、前作までとは幾分違うようにも思いますが、まぁね、そんなに大きな違いでもないです。個人的には『冬』や『春』の方が好みですが、今回も存分に楽しませてもらいました。次は別の作品が訳されたりするのかな……むしろこんなポケミスの地味シリーズがちゃんと最後まで出たということの方にびっくりするべきなのかも。

原 題:Rörgast(2013)
書 名:夏に凍える舟
著 者:ヨハン・テオリン Johan Theorin
訳 者:三角和代
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1905
出版年:2016.03.15 1刷

評価★★★★☆
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://yossiworld.blog72.fc2.com/tb.php/1229-78fa485f