ホット・ロック
『ホット・ロック』ドナルド・E・ウェストレイク(角川文庫)

長い刑期を終えて出所したばかりの盗みの天才ドートマンダーに、とてつもない仕事が舞い込んだ。それはアフリカの某国の国連大使の依頼で、コロシアムに展示されている大エメラルドを盗み出すというもの。報酬は15万ドル。彼は4人の仲間を使って、意表をつく数々の犯罪アイディアを練るが……。不運な泥棒ドートマンダーの奇怪で珍妙なスラプスティック・ミステリー。(本書あらすじより)

ウェストレイクの代表作、ドートマンダー物の1作目です。ウェスレイクは実はぽつぽつとしか読めていない作家で、これまでノンシリーズのウェストレイク名義が2冊、リチャード・スターク名義1冊、タッカー・コウ名義1冊(『刑事くずれ/蝋のりんご』をちゃんと読んだんですけど、なぜかブログに感想をかきもらしています。今から感想はもう書けないな……めちゃくちゃ面白いハードボイルド本格ミステリであるとだけ言っておきます)といった感じ。つまりドートマンダー物を読むのは初めてなのです。
いやーこれ、すっごい面白かったです。面白すぎて珍しく一日で読み切ってしまいました。ユーモア寄り、スラップスティック寄り、とは知っていましたが、ここまで笑えるタイプの話だとは思っていませんでした。最後までしっかりと笑える、めちゃめちゃ良質なクライム・コメディです。

物語は、主人公である天才犯罪プランナー、ドートマンダーが刑務所を出るところから始まります。出所後最初に彼が手掛けることになったのは、アフリカの某国の国連大使の依頼で国宝を盗み出す、というものでした。優秀なメンバーを集めていざとりかかったドートマンダーですが、予想外のハプニングから事件は思わぬ方向に動き出し……。

この手の「計画犯罪が上手くいかないミステリ」の王道転がしパターンとしては、
①ドジな仲間がドジを踏んでしまう
②依頼人など関係者の裏切りにより罠にはめられ、警察、あるいは敵対者に追われることになる
といったものがほとんどだと思います。楽だし、長編をもたせる手段としては無難ですしね。
で、自分が嫌いなのがまさにこの2パターンなのです。①はプロフェッショナルの仕事にそういうハプニング自体がもうプロフェッショナルさを感じないので嫌いですし、②はそもそも無実の容疑で追われる話が苦手なのでやはり好きではありません。

で、この『ホット・ロック』がすごいのは、上記の2パターンに陥ることなく話をスラップスティックな方向に転がし、笑いを取りながらきちんと長編に仕立てている、ということなんです。これだけ「運のない」話であるのに、誰一人としてミスをしない、という点がとても好き。足引っ張る系の仲間付きコメディ駆逐委員会としてはこの作品を高く評価せざるを得ません。

途中からドートマンダー一味は堂々巡りというか負のスパイラルに陥ってしまうのですが、まさかこれ延々と繰り返されるのでは(しかもスケールアップしながら)と思ったらまさかのその通りで。こんなコメディの定石を丁寧にやられたら笑うしかないじゃないですか。しかもマンネリにならないところで話をきれいにまとめて決着をつけさせて。死体をひとつも出さずにこれだけ話を盛れるんだもんなぁ、すげぇ。

というわけで、ウェストレイクの代表作として名高いのも納得の一冊。以前のようにこの手の作品がもっと翻訳されてほしいのですが。
なお、これで東西ミステリー・ベスト100を67冊読み終わったらしいので、ようやく3分の2制覇。先は長い……。

原 題:The Hot Rock(1970)
書 名:ホット・ロック
著 者:ドナルド・E・ウェストレイク Donald E. Westlake
訳 者:平井イサク
出版社:角川書店
     角川文庫 ウ-11-1
出版年:1972.06.20 初版
     1998.09.25 改版初版
     2010.02.15 改版3版

評価★★★★★
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