ゼウスの檻
『ゼウスの檻』上田早夕里(角川春樹事務所)

宇宙居住区の開発に乗り出した人類は、月面、火星さらには木星へと計画を推し進めていた。中でも木星には、“ラウンド”と呼ばれる人々が、宇宙開発が人体に及ぼす影響を探る実験の被験体として居住していた。それは、両性種すなわち男女両性の機能を身体に備えている新人類とも言うべき存在であった。
ラウンドはセクシャル・マイノリティーの身体の問題を解決するために進歩派と呼ばれる人々が生み出した「人体改造」の産物であったが、生命倫理的に反対する保守派との間に常に対立を招いており、〈生命の器〉という保守派の組織はテロ行為をも辞さない過激な活動を繰り広げていた。
そんな情勢下、〈生命の器〉がテロリストを木星の宇宙ステーション・ジュピターIに送り込むという情報がもたらされる。ジュピターIに乗り込んだ警備担当者・城崎がそこで見たのは、従来の人類とは違う価値観を持ちながら、しかし人間的な苦悩に悩むラウンドたちの姿だった。対立を繰り返す城崎たちとラウンドだが、その背後にはテロリストの影がすでに迫っていた……。(本書あらすじより)

今月の月イチ国内ミステリはまさかのSFです。じゃあもう月イチ国内“ミステリ”じゃないっていう。
上田早夕里さん、めちゃくちゃ評判よいので気になってはいるのですが、まだ『華竜の宮』すら読んでいません。なぜいきなり『ゼウスの檻』なのかと言えば、この本ちょいレア本でして、以前たまたま買えたのを欲しい人にあげることになったのですが、せっかくだから渡してしまう前に読んでみようと。3月はSF強化月間ですし。
さて読んでみると、これがまぁすごいジャンルミックス小説でした。ジェンダー小説だといえばそれまでなんですが、前半もりもりSF設定を書き連ね、後半は完全に謀略・テロ小説になるなど、とにかく型にはまらない印象を受けました。さらにそれがめちゃくちゃではなくて、明らかに筆者の確かな実力でひとつの小説にまとめあげられているなと感じられるのです。とりあえず上手い作家です、ってかすごい。

内容は長めのあらすじに示されている通りですが、舞台は木星付近、両性具有的な新たな人類「ラウンド」のコミュニティと、それを保護しようとする人々のもとに、保守的な一派がテロリストを送り込み破壊しようとする話です。最初はラウンドの説明が多く、うーんやっぱザッツSFだわと思っていたのですが、明らかに途中からバトル物に展開していったことでめきめき面白くなりました。伝説の女テロリストが登場して片っ端から殺しまくったりするんですよ、激アツじゃないですか。
ラウンドを保護する人、受け入れられない人、そしてラウンド自身の考えは実に多様です。登場人物全ての考えが、進歩的なものであれ、保守的なものであれ、何かしら説得的であり、ダメな人間にも一定の論理はあるし、中立的なように見える人間でもやや狭量なところを感じます。アンチ「ラウンド」の人々の考えにも微妙に「わかる……」となる要素があるんですよね。この絶妙な掘り下げ方が超上手いのです。筆者は強くジェンダーに関するメッセージを打ち出してはいますが、それが押しつけがましくもなく、あくまで読者の考えに委ねようとしているスタンスは好感が持てます。
そしてそれだけでなく、潜入したテロリストの正体やら、ラストに明かされるばらまかれたウイルスの正体やら、ひたすら後半は物語で殴ってくるので問答無用に面白いのです。ってかすごいラストですよねこれ、むちゃくちゃじゃないですか。なんでしょう、この虚無感は。

というわけで、とりあえず他の作品も読んでみようと思わせてくれる一冊でした。それにしても上田早夕里さんの著作はほぼ現役本なのですが、これが文庫化していないのはなぜなのかな……。

書 名:ゼウスの檻(2004)
著 者:上田早夕里
出版社:角川春樹事務所
出版年:2004.11.08 1刷

評価★★★★☆
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