緋文字
『緋文字』エラリイ・クイーン(ハヤカワ・ミステリ文庫)

探偵小説家ローレンスと女流演出家のマーサは、誰もが羨む幸福な夫婦だった。しかし、結婚三年目から二人の仲が悪くなり、やがて凄じいトラブルが毎日起こるようになった。エラリイと秘書のニッキーは何度か仲裁に入っては、諦めて手を引こうとしているうちに”緋文字殺人事件”とよばれる姦通事件に巻き込まれていった。死者の残したダイイング・メッセージ、XYの謎とは? ホーソーンの同名小説に因んだ中期の代表作。(本書あらすじより)

久々に後期クイーンを読みたくなってこれを。いま『緋文字』を「中期」の「代表作」という人はあまりいないと思いますが、ハヤカワ・ミステリ文庫に2番目に入ったクイーンがこいつなんですよね。
さて、やっぱり自分は国名シリーズよりも後期クイーンが好きなんだなぁと感じさせられた一冊でした。正直途中ちょっと飽きてたし、最後までこの不倫話だけなのかー何にも捻りがないなーなんかしょぼいなーと思って読んでましたよ、えぇ。と思ったらラストでぶん投げられました。『ギリシア棺』の時にも思いましたが、クイーンはきれいにはまると見事に騙されます。これは、いい”法廷小説”でしょう。

奥さんの浮気をやたらと疑う情緒不安定男と、その浮気してるかも?な妻、およびその浮気相手?のジゴロが主要登場人物。これだけです。てっきりこういう見せかけの小説かと思ったら、本当にこれだけなことに途中でびっくりしてしまいました。いやもうただの恋愛ドラマじゃないですか。なんじゃこの悲劇まっしぐら感は、っていう。
エラリイは奥さんから頼まれて情緒不安定男を何とかしようとするのですが、エラリイはエラリイでイライラさせまくることしか言わないわ頭かきむしってばかりだわで何にもしませんし、秘書のニッキーはニッキーで最初は親友のために頑張るぞだったのに後半やっぱりどうしようしか言ってないし。いやほんと地味な作品なのです。ある程度しょぼいとすら言えます。殺人事件も何も起きませんし、何かが起きているのだけれどもそれが分からない、いわゆるホワットダニットのみで8割押し切っているわけですから、異色作と言っていいかもしれません。

ところが、そう、これ以上言えないのですが、ラストでこの小説の見かけがガラッと変わってしまうのです。いやーこれはすごい仕込みだったなぁと。やっぱり地味は地味ですが、この取り組みというか小説自体はちゃんと評価してあげなきゃなと思います。プロットと仕掛けのために物語をある程度犠牲にしているのは仕方ないのです(たぶん)。
解説にクイーンとクリスティーの関わりが書かれているんですが(『そして誰もいなくなった』を読んで、トリックを先にやられてしまい、クイーンが書きかけていた小説案をボツにした、という話は知りませんでした)、確かに『緋文字』はすごくクリスティーっぽいと思います。っていうかありますよねこれ、似たようなのが。

というわけで、上位に来る面白さでは決してありませんが、後期クイーンの層の厚さを感じさせてくれる一冊でした。作家クイーンはチャレンジングなミステリ作家だったんですね。
ちなみに、作中でエラリイがアメリカ探偵作家クラブに出席したり、「バーナビイ・ロス」なる偽名を使ったり、さらには《エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン》のために郵送されて来た原稿類を整理したりしているんですが、つまり作中のクイーンは現実の作家エラリイ・クイーンとほぼ同一人物扱いなんでしょうか。現実のクイーンは2人ですけどね。

原 題:The Scarlet Letters(1953)
書 名:緋文字
作 者:エラリイ・クイーン Ellery Queen
訳 者:青田勝
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 2-2
出版年:1976.04.30 1刷
     1997.12.15 22刷

評価★★★★☆
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