悪夢はめぐる
『悪夢はめぐる』ヴァージル・マーカム(ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

刑務所長のわたしに全囚人を見せて欲しいと、前触れなく刑務所をおとずれた女性。死刑囚は最後に「あんたはもう足を突っ込んでるのかもしれない」と言い残して死んだ。送られてきたメッセージにしたがって車に乗り込むと、それから悪夢のごとき長いドライブと予想もつかない冒険がはじまった。『死の相続』を超える、アメリカ黄金時代の最大の怪作! ついに封印を破って邦訳!(本書あらすじなど一部改編)

『死の相続』は自分のオールタイムベスト級(ベストではない)のスーパー怪作ですので(未読の方はいますぐ読もう!)、それを超えるとか言われてしまうともう読まずにゃいられないわけですよ。というわけで意気込んで読んでみました。
めちゃくちゃ不親切な小説である上に、肝心の内容が本当に大したことない作品です。色々な要素をつぎはぎにしていますが、それが上手くないし、中身が薄すぎ。これでもうちっとサプライズの演出なりがうまければB級の面白い作品になるんでしょうが……。

あらすじはあってないようなものなんですが、とりあえず序盤では、刑務所長が、死刑囚の残した謎のことばに従うことで、財宝探しに乗り出します(というわけで刑務所長の仕事も不祥事を起こしてやめます)。ひとまず大都市に来た主人公は、裏社会の情報を探るべく潜入していくのですが。というわけでここはノワールというか犯罪小説風という感じ。
ところがなんやかんやあって、最終的にその都市を抜け出し、いちから財宝探しを仕切り直していくうちに、今度は密室殺人事件に遭遇します。もう終盤なのであらすじはこれくらいにしますが、いやほんと展開はぐちゃぐちゃですね。

不親切な小説、というのは、例えばあの手紙にあんなことがあったような!って感じで後から内容を明かすとか、前後の章でつながりが不自然だとか、主人公の行動の不可解さとか、とにかく色々。特に刑務所長だった主人公がそれを辞めてギャングの世界に突進していく様は本当にワケが分かりません。財宝探しって言ってもあれですよ、かなり不確実っぽい怪しい話なんですよ。本当に運だけで調査は進むんですが。

むちゃくちゃな展開とかご都合主義的なところとかは今年翻訳されたハリー・スティーヴン・キーラーっぽいのですが、キーラーの方がもっと割り切っているというか、タガが外れていて面白かったなと個人的には思います。中盤まで人探しでニューヨークに来てあてもなくうろつきまわるだけなんですよ、マジで。来て速攻で出くわしまくるとかならともかく、出くわしたり、数か月無駄にすごしたり、とスピード感もまちまちで気持ち悪いです(長いよね、全体的に)。ニューヨークの犯罪組織に入って行くくだりも、悪さを描き切るでもなし、茶化すわけでもなし、ハードボイルドでもなし、だらだらと目的もなく主人公が日々を過ごすだけなので中盤までがまったく面白くありません。
中盤までの流れを完全に断ち切って突入する終盤では、いきなり不可能趣味満載の密室殺人が発生します。まぁ頑張ったことは認めますが、これだって実にどうでもいい真相。そして主人公が追い求めてきた財宝の正体の肩すかしっぷり。ラストが非常にきれいなだけに、もっと最初と最後を上手くつなげて欲しかったです。

というわけで、B級の作品ばかり書いているというヴァージル・マーカムですが、B級というか本当のB級なので、わざわざ読む必要があるのかというと……。少なくとも、『死の相続』と比べて名前を出すのは無理があると思います。

書 名:悪夢はめぐる(1932)
著 者:ヴァージル・マーカム
訳 者:戸田早紀
出版社:原書房
     ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ
出版年:2015.10.30 1刷

評価★★☆☆☆
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