死者の中から
『死者の中から』ボアロー/ナルスジャック(ハヤカワ・ミステリ文庫)

重い高所恐怖症にかかり、警察を辞め弁護士となったフラヴィエールは、友人の実業家の頼みで素振りがおかしいという妻の尾行を引受けた。自分を自殺した曾祖母の生れ変りと信じる彼女に自殺の気配があるというのだ。確かにその行動は奇怪だった。苔むした墓地で、あるいは川岸で彼女は放心したように物思いに耽っていた。そしてある日、鐘楼の高みに登った彼女は高所恐怖症の彼をふりきり突如、暗い死の淵へと身を投げた……!ヒッチコックの『めまい』の原作。謎と恐怖と心理のミステリの三要素を兼ね備えるフランス・サスペンス小説の代表作。(本書あらすじより)

ハヤカワ・ミステリ文庫から出ているボアナルは3作ありますが、現状その中で最も見つかりにくいであろう作品です(パロル舎から出ている『めまい』も同じ作品ですが、こっちもあまり見かけません)。初期ボアナルは特に完成度が高いとよく聞きますが、なるほど確かに非常に彼ららしい作品です。ボアナルの創作スタンスなどについては『影の顔』の記事に書いたのでここでは割愛しますが、要するに一見非合理的な怪奇・恐怖と合理的解決を融合したところにボアナルらしさがあるのでしょう。
ただ、発端は魅力的だし、趣向自体は面白いんですが、全体的にだれてるというか、まだるっこしいというか、やや読みにくい、という感想の方が内容に対する驚きに勝ってしまいました。そう考えると、新訳で読んでみたい気もします。悲劇調の物語に組み込まれた仕掛けはさすがなだけにちょっともったいないです。

妻マドレーヌの不可解な行動を解明してほしいと主人公フラヴィエールが友人ジェヴィーニュから頼まれる。調べてみると確かに様子がおかしい。どうやら彼女の自殺した祖母と同じ行動をとっているようで、行動を見る限りでは祖母が乗り移っているとしか思えない。しかしフラヴィエールはマドレーヌを調査していくうちに彼女ににひかれてしまい……。

マドレーヌに行動の不可解さについては、最終的にかなり合理的な説明が登場し、ここはまさにボアナルの面目躍如といった感じ。いかにもな真っ当なサスペンスになる題材を、彼らが調理するとこう見せられるのか、という上手さ。やっぱりボアナルの創作スタンスって偉いです。新本格に通じるものがあるかもしれません。あと関係ありませんが、なんとなくこの真相が明かされるシーンがウールリッチっぽくないですか?
そういえば、ボアナルって第二次世界大戦の使い方も上手いですね。『牝狼』も戦中が舞台でしたし。このへんの初期作の発表年は基本的に1950年代なので、意図的に企みを生かしやすい年代を選んでいるのだと思います。

で、内容にほぼ文句はないんですが、主人公のマドレーヌに対する感情がダダ漏れになり始める第二部以降(いや最初からなんだけど)がちょっと長いということもあり、また日影丈吉訳がことさら古めかしいというのもあり、個人的にはぜひとも引き締まった新訳で読んでみたいです。主人公の恋い焦がれ絶望に追い込まれた心情をねちっこく書くこのくどさが仏ミスならではって言えばそりゃそうなんですけど、さすがにだれ気味……ってボアナル全部そうか。
個人的にはよりつらい雰囲気満載の『影の顔』の方が好きですし、もっと言えば予想もできない展開が面白かった『牝狼』の方が好きです。あとは『悪魔のような女』さえ読めば初期の代表的なところはコンプリートかな? なるべく早いうちに読んで感想をまとめたいですね。

書 名:死者の中から(1954)
著 者:ボアロー/ナルスジャック
訳 者:日影丈吉
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 31-2
出版年:1977.06.15 1刷

評価★★★☆☆
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