悲しみのイレーヌ
『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル(文春文庫)

連続殺人の捜査に駆り出されたヴェルーヴェン警部。事件は異様な見立て殺人だと判明する……掟破りの大逆転が待つ鬼才のデビュー作。(本書あらすじより)

去年翻訳ミステリ界中の話題をひっさらい、各種ランキングをそうなめにした、ピエール・ルメートルの『その女アレックス』……を実はまだ読んでいなかったのです。なんてこったい。いや、なんかグロイと聞いていたので敬遠していたらこんなことに……。
そうこうしているうちに、『アレックス』の前作、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第1作『悲しみのイレーヌ』が翻訳されました。聞くところによると、シリーズ順で『イレーヌ』を先に読む方がいいとのことですし(編集者さんが呟かれていました)、実際両方読んだあとで確信を持って言えるのですが、『イレーヌ』が先の方がいいです。個人的に面白さも『イレーヌ』の方が好きかなー。まぁ、『アレックス』の感想は1ヶ月ほどしたら記事を書きますので。

さて、前置きはこれくらいにして、とにかくヴェルーヴェン警部シリーズ第1作『悲しみのイレーヌ』ですが、なんと見立て連続殺人犯ものです(なんの見立てかは読んでのお楽しみ)。なかなかミステリ読みの心をくすぐり、非常に楽しいのですが、ある仕掛けが明らかになった後がどうしても好きになれませんでした。頑張って読んだ自分を否定されるみたいで。ってこの手のトリックを読むといつもそういう感想書いてますけどね、自分。

ネタバレ警戒してぼやかして言いますが、どうもこの手のトリックにも自分で受け入れられるやつと受け入れられないやつがあるようです(最近気付きました)。要するに場外ホームランの度合いが大きければ大きいほど苦手に思うみたいなのです。あくまで読者として作中に没入したいというのが正直なところ。
ですから『イレーヌ』について言えば、その仕掛けが分かるまでの連続殺人捜査パートはすごく好きです。見立て(これが海外ミステリ好きの心をくすぐるんですよ、いやほんと)が次々に明らかになる読者を飽きさせないこまめな情報開示なんか最高ですし、グロめの連続殺人事件もフランスミステリらしい文体の簡潔によって淡泊さを保っているのがいいですね。どぎつい殺人事件の内容とは対称的に、残酷でもなく非情でもない、シビアで程よく地味な捜査小説であるように見えます。
捜査陣も非常に個性的で実にフランスミステリらしくて良いのです。やっぱりフランスには変な警察官が似合います。仕掛けや猟奇性を抜いても、チームでの捜査、つまり警察小説としての面白さがまずしっかりしている点に好感が持てます。

ラストのラストについては……まぁ現代のミステリではこういうのもはや珍しくなくなってきましたからね、半ば諦めてます。でも、読後印象に残るのは、これよりも中盤までの捜査なんですよね、不思議。

というわけで……なんといえばいいのかな、ある意味で非常にフランスミステリらしい作品ですよね、トリックもキャラクターも。こういうミステリが海外ミステリ好き以外の層にまで届いてくれる、というのはすごく嬉しいことだと思います。いろいろ言いたいこともありますが、とりあえずそんな感じで。

書 名:悲しみのイレーヌ(2006)
著 者:ピエール・ルメートル
訳 者:橘明美
出版社:文藝春秋
     文春文庫 ル-6-3
出版年:2015.10.10 1刷

評価★★★☆☆
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