ザ・ドロップ
『ザ・ドロップ』デニス・ルヘイン(ハヤカワ・ミステリ)

バーテンダーのボブがその子犬を拾ったのはクリスマスの二日後のことだった。仕事からの帰り道、たまたま通りかかった歩道の横のゴミ容器から、弱々しい泣き声が聞こえたのだ。子犬を抱き上げ、近くのアパートからナディアが姿を見せた時、孤独な負け犬だったボブの人生は変わった。殻から抜け出し、人生に希望が見えたのだ。だが、組織が所有する彼の勤め先のバーに強盗が押し入ったことから彼にも火の粉が降りかかってきた……ボストンの裏町に生きる人々の姿を巨匠がムード充分に描き、映画化された傑作ドラマ。(本書あらすじより)

パトリック&アンジーシリーズをひとつも読んでいないのに、気付けばルヘイン3冊目。近年のポケミスの中では断トツで薄く、200ページを切っています。後書きに詳しいですが、ルヘインの短編「アニマル・レスキュー」(ミステリマガジン2012年1月号に翻訳あり)が『ザ・ドロップ』のタイトルで映画化され、ルヘイン自身が映画を小説化したものなのです。だから長編というより中編サイズに近いのでしょう。
それはともかく、現時点での今期ポケミスベストです。いやー素晴らしいですよこれ。一見いかにもなベタな犯罪小説と泣きの話なんですが、それを190ページという短さに圧倒的濃度で凝縮し、ぴりっとした文体で締め、ラストにちらっと無情さをほのめかす……(おまけに犬がかわいい)。もう言うことがありません。

趣味も持たず、友人もいないボブは長年しがないバーテンダー。そんなある日、彼はゴミ箱に捨てられた犬を見つけ、一大決心、その場で知り合ったナディアの助言のもと飼うことにする。しかしバーに強盗が入ったことで、裏社会のきな臭い出来事にボブは巻き込まれるのだが……。

孤独で、だがどこか秘めたる意志を持ち、危うさも持っているように見えるボブという男の造形が見事です。愚直でさえない彼が、犬を飼い始めて知り合った女の子と一緒に犬の散歩に出かけるのです。そして物語が進む中で、ボブは少しずつ変化していくのですが……とここだけ見るとただの孤独な男の物語なんですが、これで終わらないところがいいのです(読んでのお楽しみ)。ボブが子犬を手にして人生最大の幸福を味わったとか言うんだよ……超かわいいよね子犬が……それなのにああいうラストっていうのがさぁ……。
他にも、バーの持ち主であるカズン・マーヴ、店の真の持ち主であるチェチェン人マフィア・チョフカ、出世欲の強い刑事トーレス、そして子犬を返せと迫る正体不明の危険人物エリック・ディーズなどなど(彼の得体のしれない感じがすごく好き)。こうしたアクの強い登場人物が本当にキレッキレでぐいぐい来ます。190ページなのに、めちゃくちゃ濃密なせいでさらっと流し読みできません。

彼らが混然一体となりボストンの裏社会が描かれ、ちょっとした驚きを交え、ラストにどこか諦念漂うパラグラフが盛り込まれます。つまるところ、これは犯罪小説の見本みたいなものなんじゃないでしょうか。無駄なく、けど少し感傷的な文章により、とにかく密度が高い一冊。最高です。個人的には『夜に生きる』よりもこういう路線のルヘインを読みたいかなー。

書 名:ザ・ドロップ(2014)
著 者:デニス・ルヘイン
訳 者:加賀山卓朗
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1893
出版年:2015.03.15 1刷

評価★★★★☆
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