街角の書店
『街角の書店』中村融編(創元推理文庫)

江戸川乱歩の造語である〈奇妙な味〉は、ミステリにもSFにも怪奇小説にも分類不能の、異様な読後感を残す小説を指す。本書には、翻訳アンソロジーの名手が精選した作品──異色作家の埋もれた名作、スタインベックら大家によるユーモア譚、SF界の鬼才の本邦初訳作など18篇を収めた。ひねりの利いたアイデアストーリーから一風変わった幻想譚まで、多彩な味をご賞味あれ。(本書あらすじより)

とりあえず、収録作一覧をご覧ください。

ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」
イーヴリン・ウォー「ディケンズを愛した男」
シャーリイ・ジャクスン「お告げ」
ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」
ハーヴィー・ジェイコブズ「おもちゃ」
ミルドレッド・クリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」
ロナルド・ダンカン「姉の夫」
ケイト・ウィルヘルム「遭遇」
カート・クラーク「ナックルズ」
テリー・カー「試金石」
チャド・オリヴァー「お隣の男の子」
フレドリック・ブラウン「古屋敷」
ジョン・スタインベック「M街七番地の出来事」
ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」
フリッツ・ライバー「アダムズ氏の邪悪の園」
ハリー・ハリスン「大瀑布」
ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」
ネルスン・ボンド「街角の書店」

……という感じのアンソロジーとなっております。
いわゆる奇妙な味アンソロジーで、最初から最後にかけて徐々に超自然要素の強い短編を並べていく「グラデーションのような配列」が素晴らしいの一言。一口に奇妙な味といっても範囲が広く、不条理ミステリっぽいものから、ほぼSFやファンタジーと言ってよいものまで様々。自分の好みはどういう作品かを知ることが出来ます。アベレージも高く良短編集でしょう。

前半の収録作は、いわゆるミステリ読者のよく知る奇妙な味に近いと思います(ロアルド・ダールとかスタンリイ・エリンみたいなやつ)。一方後半はファンタジー、SF寄りで、こういう話も奇妙な味って言うのね、と勉強になりました。基本的には前半が好み……かと思いきや、後半もちょこちょこ面白いのがあってなかなか油断ができません。余談ですが、「奇妙な味」というネーミングを考えた江戸川乱歩はマジで偉いと思います。
それでもベストはやっぱり初っ端のジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」。もうタイトルからして強い、奇妙な味の王道です。立ち読みでこれだけ読むのでもいいくらい。他にシュヴァイツァー「旅の途中で」、クラーク「ナックルズ」、ゼラズニイ「ボルジアの手」、ヴァンス「アルフレッドの方舟」なんかも好き。いやーこれはおすすめですよ。
というわけで、以下簡単に感想を。

ジョン・アンソニー・ウェスト「肥満翼賛クラブ」(1963)
あらすじあえて省略。デブネタでこの内容はもはや王道とも言えますが、そのためにコンテスト、およびラストの謎オチを盛り込むという奇抜っぷりに恐れ入ります。そもそも「グラディスのグレゴリー」という書き方からしてやばいのです。傑作。

イーヴリン・ウォー「ディケンズを愛した男」(1933)
ジャングルで迷い死にかけていた男を救ったのは、その地に住むディケンズを愛した男だった。
ウォーのブラックユーモアはエグいからちょっと苦手。あー!だめー!あーー!って叫びながら絶望へと進んでいく主人公を眺めるタイプの話。

シャーリイ・ジャクスン「お告げ」(1958)
おばあちゃんの買い物メモがもたらしたお告げとは。
これ、奇妙な味なの? ユーモア短編で、ほっこりする系の話。どちらかと言えば小品という感じでしょう。むしろジャクスンってこういう話も書くんだ、みたいな。『野蛮人との生活』読みたいです。
そういえば、シャーリイ・ジャクスンの短編集が来月創元から出ますね。まだ一冊も読んでいないので、これを機に読もうかな。

ジャック・ヴァンス「アルフレッドの方舟」(1965)
大洪水を予感したアルフレッドは方舟を作り出す。
これは好きです。人間のあさましさと、神を失った現代の皮肉っぷりがよいバランス。この終わり方もすごく好み。

ハーヴィー・ジェイコブズ「おもちゃ」(1969)
ハリーは骨董品店で昔自分のものだったおもちゃのトラックを見つける。
これ、いかにもありそうな話だってところがイヤな話。情より商売な人々にうんざりしましょう。

ミルドレッド・クリンガーマン「赤い心臓と青い薔薇」(1961)
クリスマス休暇を過ごす家族に、デイモンという少年が入り込んできた。
寄生もの。しかも少年ものです。もうほんと苦手なうげげという話なんですが、オチの強さといい、語りといい、構成といい、うまいと言わざるを得ません。子どもが家庭の中に入りこんで寄生していくタイプの話、クェンティン・パトリックでも読んだことがありますが、ほんとイヤな題材ですよね……。

ロナルド・ダンカン「姉の夫」(1965)
戦時中姉の元に帰るマクリーン大尉は、電車内でバックル少佐と乗り合わせ、姉の家に泊めることにした。
怪奇小説に近いです。この人間関係が、シビアそうで案外ゆるやかに進行するのがどこかとぼけていていいですね。オチも後味悪いってのとは違うし。結構面白いです。

ケイト・ウィルヘルム「遭遇」(1970)
雪で立ち往生したバスが動き出すのを待つため、待合室に留まった男は、女との会話を通じて人生を振り返る。
……という話なの? 本短編集の中で最もよく分からない話。表面上にしか周りを見られない人をdisってます(つらい)。オチ含め全く「遭遇」の意味が分からないので誰か解説を希望(ぜひコメントで教えてください)。

カート・クラーク「ナックルズ」(1964)
サンタクロースに対する悪の神ナックルズを考え出した父親の話。
これは好きです。オチが見えている、あまり悪意のない、善意のクリスマスストーリーとして捉えてあげたい作品。最後の一行は笑っちゃいます。ちなみになんとなく予想通り、ウェストレイクの別名義での作品です。

テリー・カー「試金石」(1964)
書店で魔力があるという石を買ったランドルフは、その日ずっと石を触りぼんやりとしていた。
ちょっと苦手なタイプの話。魔術はこわい。ニート各位に読ませたい作品です。

チャド・オリヴァー「お隣の男の子」(1951)
「お隣の男の子」というラジオ番組で、ゲストとして来た8歳の男の子があることを話そうとする。
出ました、これはまさに奇妙な味……と思ったんですが、ラストのアンクルの正体にやや興ざめ。ああいうのが出た途端、安っぽく見えてしまうのは、やっぱミステリ読みの性なんでしょうか……。

フレドリック・ブラウン「古屋敷」(1960)
古屋敷。ショートショート。短すぎて特に感想が出て来ません。

ジョン・スタインベック「M街七番町の出来事」(1955)
息子がガムを噛み続ける話。
なんと作者はあのスタインベック。一見怖そうな題材ですが、語りはユーモラスで、オチも穏やか。ガム、というあたりがアメリカっぽい話ではあります。

ロジャー・ゼラズニイ「ボルジアの手」(1963)
自らの萎えた手を変えたがる少年の話。
もーこんなん笑うに決まってるじゃないですか。でもこれが発端なら、彼がその後あれらを殺すのはおかしいような? 作者紹介が懇切丁寧なので、読了後に読んだ方がいいかもしれません。

フリッツ・ライバー「アダムズ氏の邪悪の園」(1963)
男性向け雑誌を発行するアダムズ氏はある秘密の植物園を持っていた。
この短編集の中ではやや長めですが、そんなに読みやすくもないです。やっぱライバーってエロいの好きなんじゃないかな……。最後のやつって、死ぬけど、色々な意味で幸せそうです。

ハリー・ハリスン「大瀑布」(1970)
途方もない大瀑布の側で40年間過ごしている男の話。
ザ・奇妙な味っぽい、あと星新一っぽいとも思いました。地味に好きな作品です。最後のがらっと変わるところとか。でもちょっとよくわかんないところもあって……聖書にこんな話でもあるんでしたっけ。

ブリット・シュヴァイツァー「旅の途中で」(1960)
頭が落ちた男の話。
大爆笑。妙に明るくてさばさばとした、楽しい奇想系の話。読み終わると顎が疲れます。作者も掲載誌も不明というエピソードも含めていろいろ面白い作品です。

ネルスン・ボンド「街角の書店」(1941)
奇妙な書店に迷い込んだ作家の物語。
巻末作ではありますが、わりと奇想度は低めな印象。だってありそうじゃないですか。マジレスすると、この主人公とは違って大作家たちは、晩年に傑作を残せるかというと疑問な人も多いんじゃないでしょうか。ちょっとありきたりかな、と思います。

書 名:街角の書店(1933~1970)
著 者:フレドリック・ブラウン/シャーリイ・ジャクスン他
編 者:中村融
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Fん-8-2
出版年:2015.05.29 初版

評価★★★★☆
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