時の誘拐
『時の誘拐』芦辺拓(講談社文庫)

名探偵、大阪を翔ける 本格推理の到達点! 府知事候補の娘樹里が誘拐された。身代金運搬に指名されたのは全く無関係の青年阿月。だが大阪の都市構造を熟知した犯人の誘導で金を奪われ疑いの目は阿月自身に。彼の汚名をすすぐべく乗り出す素人探偵森江だが、捜査の先には戦後の大阪で起きた怪事件の謎が!? 過去と現在が交錯する著者屈指の傑作長編。(本書あらすじより)

はい、というわけで毎月恒例月イチ国内ミステリのお時間です。今回は芦辺拓……以前『スチームオペラ』のみ読んだことがあります。森江春策シリーズを読むのは初めてですね。素人探偵だと思ってたら弁護士でした。
全体的に悪くはなく、というか結構な作品だと思うんですが、あんまり好きになれずどこかもやっとするのはなぜなんでしょう……力作だし、良作ではあると思います。

物語は、府知事候補の娘誘拐事件という現在の軸と、戦後大阪の連続殺人事件という過去の軸のふたつに大きく分かれています。前半は主に身代金受け渡し、中盤は過去パート、後半は誘拐事件の捜査パートとなります。
身代金受け渡しネタはよかったですね。あそこは終始楽しく読めました。あっと驚く身代金奪取方法など、非常に練られた誘拐計画であると思います。
また個々の事件のトリックもなかなかで、そのトリックをあえて使い回すことで過去から現在を繋いでいるのもなかなか面白い趣向です。過去パートの連続殺人事件のトリックが特に優れていましたね。アリバイ崩しから不可能犯罪までてんこ盛り。また過去パートは都市モノというか、読み物としての面白さが際立っており、連続殺人事件自体が大変激アツです(めっちゃ調べたんだろうなぁ)。たたき上げの警部と熱意あふれる新聞記者という組み合わせが楽しいです。

ただ、過去と現在の繋がりを盛んに提示するわりにあんまり結びつかずに終わったところはマイナスポイント。色々と詰め込みまくっていることは評価しますが、詰め込んだだけ、という印象があります。またある人物についてモヤモヤさせるのも嫌いかな……あんまりこうすることの意味がないし。ただ、読んでいて一番合わないなと思ったのは、全体的に作者の主張というか考えが色濃く出すぎていて、しんどいところな気がします。個人的には作者の考えには賛同なんですが、あんまり読書中にそういう政治色出されるとうざったい……。

誘拐事件の顛末を描いた終盤がやや尻すぼみということもあり(前半、中盤の方がはるかに面白い)、全体として見るとまぁそこそこ、くらいに留まってしまう惜しい作品でした。あちこちで絶賛されているのをよく聞きますし、納得はできますが、なんかこうこれといって大好きな要素もないのがつらい。姉妹編の『時の密室』を読むかは未定ということで。

書 名:時の誘拐(1996)
著 者:芦辺拓
出版社:講談社
     講談社文庫 あ-78-4
出版年:2004.03.15 1刷

評価★★★☆☆
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