怪盗レトン
『怪盗レトン』ジョルジュ・シムノン(角川文庫)

本書はシムノンが80編ちかく書きついだメグレ警部シリーズの、記念すべき長編第一作である。雨まじりの突風が北停車場のガラス窓をはげしく叩く。『北極星号』から降り立った乗客の一人にメグレは目をとめた。詐欺を専らとする国際犯罪組織の首領、ビートル・ル・レトンに間違いなかった。だがレトンはもう一人いた……『北極星号』の洗面所から転がり出た死体も、レトンの人相特徴と一致したのだ! ”二人のレトン”の謎を追って、パリの豪華ホテルから裏街、そして遠くベルジュ海岸へと捜査を続けるメグレの前に、事件の意外な真相と、一人の男の哀切な過去が浮かび上がってくる……。(本書あらすじより)

現在、翻訳ミステリー大賞シンジケートにて、瀬名秀明さんによる「シムノンを読む」という連載が行われています。メグレ警視ものをシリーズ順に読んで行こうというもので、毎回おそろしいまでに細かい分析と書誌情報が大変魅力的です。現在第11回まで来ていますが、これ読んでいるとメグレ警視を読みたくなるんですよね、いやほんと。というわけで今後自分もこの連載のペースに合わせてメグレ警視を消化していくつもりです。なにしろこの間25冊もまとめ買いしてしまったわけだし。
なお、瀬名さんによる『怪盗レトン』レビューはこちら、刊行順では5番目ですが、『怪盗レトン』が実質的にメグレ警視第1作であったことについての研究がこちらこちらをご参照ください。

というわけで、メグレ警視登場作です。この本の訳ではメグレ警部となっていますね。
国際犯罪者を相手に相棒の刑事を殺されたメグレ警部が奮闘する!という予想外にハードでボイルドな展開の一方で、メグレらしい急がず適当な捜査もあるという、非常に変な作品。シリーズ1作目ということでややこなれておらず、まとまりに欠けた印象を持ちました。

火にあたりたがるシーンを繰り返すなどメグレのキャラ付けに力を注いでおり、最後の犯人の告白を聞くシーンはまさにメグレそのもの。そのせいで、”怪盗レトン”という敵役に対する捜査がどうしても手ぬるいというか、おかしい印象を受けます。駅から出てくのを尾行もつけずに放置したりね。メグレのキャラクターはやっぱり国際犯罪者と相性が悪いような……。
怪盗レトンの正体についてはかなり複雑なトリックが用いられており、作者の頑張りが感じられます。証拠がない中で、『男の首』のごとく、犯人をじわじわと追い詰めることに徹するメグレ警部らしい解決の仕方は、なかなかいいんじゃないでしょうか。そのせいで、犯人の大物感と小物感が同居していることになるのですが、これはこれで理由があるので仕方がないですね。

全体的に面白くはあるんですけど、いびつというか不揃いで、1作目とはいえここからメグレ警視に入るのはあまりおすすめ出来ないかなぁと思います(まぁ『怪盗レトン』は電子書籍でならすぐ買えますが、古本としては珍しい方なのでなかなかそういう方はいないと思いますが)。うーんまぁメグレファン以外は読まなくてもいいかな……。


書 名:怪盗レトン(1930)
著 者:ジョルジュ・シムノン
訳 者:稲葉明雄
出版社:角川書店
     角川文庫 赤503-4
出版年:1978.01.10 初版

評価★★★☆☆
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