Zの喜劇
『Zの喜劇』ジャン=マルセル・エール(近代文藝社)

フェリックスはB級映画オタク。そこは引退したポルノスターの集う養老院。巻き起こる謎の失踪事件。あるときスポンサーから撮影を依頼され人食い異星人とトップレスの娘が登場し……史上最低のフランス・フィルム・ノワール。(本書あらすじより)

はじめに言っておきますと、あらすじと帯が盛大にウソついています。人食い異星人とトップレスの娘が登場するわけではなく、人食い異星人とトップレスの娘が登場する映画シナリオが出て来るというだけのことです。なんという看板に偽りあり。
それはさておき、エラリイ・クイーンと全く関係のない『Zの喜劇』なのですが、超面白かったことをご報告させていただきます。今年の新刊ベスト級ですよ、皆さん。
これぞ軽薄ユーモアどたばたコメディちょっとブラックどんでん返しおフランスミステリ。とにかく読んでいて笑えるし飽きさせません。こまめに意外な展開を作りながら最後に真相をさりげなく提示。素晴らしいの一言。注目が圧倒的に足りないぞ。

あらすじをもう少ししっかり書きますと、主人公のフェリックスはほぼ奥さんのヒモと化している、社会不適応者、かつZ級(つまりゴミのような級の)映画好き。Z級映画を日に3本観て主夫業(凶暴な1歳の娘の世話が中心)をし、映画のシナリオを書き始めては書き切らず(すべて未完成)、映画ブログを毎日更新するのがお仕事。
そんなフェリックスについに仕事のチャンスが。なんと彼の脚本を映画化したいというプロデューサーが現れたのです。気合を入れて会いに行くと、そのプロデューサーはなんと肉屋。出来そこないの息子が肉屋を継がず映画監督になりたがっているので、出来そこないの映画を作らせ夢を潰すのが目的だという。すでに出世の道が断たれている感じではあるけど、仕事の無いフェリックスは仕方なく脚本を渡します。
その脚本の内容は、元映画俳優(端役しかやったことのない無名ばかり。旧仮名遣いで話す元女優やいまだに精気盛んな105歳の元ポルノ俳優など変人多数)専用の老人ホームで起きる連続老人失踪事件を描いたミステリ映画。もう見るからにどうしようもない脚本ですが、Z級映画好きのフェリックスとしてはもちろん自信の一作。
翌日肉屋から電話が。行くと刑事が待ち構えています。なんと彼の脚本に書かれた老人ホームと登場人物は実在し、実際に失踪事件が起きているというのです。当然フェリックスは容疑者として疑われることになるのですが……。

という、はちゃめちゃなメインストーリーの合間に、フェリックスの脚本、ブログ、出来そこない刑事のふざけた報告書、さらにはジャン=マルセル・エール著『Zの喜劇』を読むフランス在住読者ユベール氏による『Zの喜劇』のくだらなさに対する憤りなど(すごいメタ視点)が頻繁に挿入され、独特な雰囲気が漂っています。これがめっちゃ楽しいのです。
登場人物も奇人変人ばかりで混迷を極め、ドタバタ感がどんどん増していきます。ダメ男フェリックスをびしばししごく妻、姉、母といった”強い”女性メンバー、コロンボかぶれの刑事、そのどうしようもないバカ息子と、マトモなやつが一人もいません。飼い猫すら面白いんだから困っちゃう。
ちなみに映画ものではありますが、登場する映画が何しろZ級なので、日本で公開されているものがほぼありません。ということはほとんどの日本人は知らないはずなので、俺映画とか詳しくないしー、みたいな人でも問題ありません。

こうして終始ゆるい雰囲気を保ちつつ、大団円と笑っちゃうようなどんでん返しをさらっと流し込むので、ミステリとしても油断できません。読後の満足感は非常に高く、さらに読み返すとさりげない伏線があったことに気付き結構感心しました。フランスミステリらしい怪作ですが、おすすめしやすい快作。もっと人気出て欲しいですね、いやほんとに。今年出た仏ミスでいえば『悪意の波紋』の100倍は面白いです。手記やら記事やらを頻繁にはさみ込むのはジャン=マルセル・エールさんのいつものやり方だそうで、他作品もぜひ読んでみたくなります。翻訳期待!


書 名:Zの喜劇(2010)
作 者:ジャン=マルセル・エール
訳 者:中原毅志
出版社:近代文藝社
出版年:2015.04.10 1刷

評価★★★★★
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