牝狼 窓
『牝狼/窓』ボアロー&ナルスジャック/マリオ・ソルダアティ(現代推理小説全集)

(本書あらすじは省略)

先日名古屋に行った際に買ってきたものです。ナルスジャックとソルダアティという、フランスとイタリアの作家がセットになった一冊。というわけで感想もそれぞれで書きますが、「牝狼」はさすがボアナル、読む価値は大いにあると思います。

「牝狼」ボアロー&ナルスジャック

第二次世界大戦中、収容所を脱走した私・ジェルヴァイと友人ベルナアルは、ベルナアルの戦争養母(戦時中兵士と手紙をやり取りするご婦人のこと)エレエヌのもとへ逃げ込もうとしていた。しかし道中でベルナアルが死んでしまう。エレエヌに会えた私は、自らをベルナアルと偽ってしまうが……。

ボアナルコンビでの第4長編。「めろう」と読むようです。初期作の中では唯一文庫化しておらず、入手困難な部類に入ります。ちなみに東京創元社なのにボワロ&ナルスジャックじゃないんですね。文庫を出し始めてから早川との重複を避けるために変えたんでしょうか。
サスペンスにありがちな導入なのに、的確な悪女を3人も配置し、説明のつかない謎を適度に挟み込みながら、うってかわってこんなラストに落とし込むとは。どんでん返しを含めて実によく出来たボアナルらしい佳作だと思います。

主人公ジェルヴァイは教養は高いものの意志が弱く、ベルナアルから離れて脱走したいけれどもついてこいよと強く言われると逆らえない、という何とも中途半端な人物。一方早々に死んでしまうベルナアルはガタイのいい製材業者で、なぜか私と共に行動したがります。
そしてジェルヴァイが逃げ込む戦争養母エレエヌは33くらいの美しくもない独身女性ですが、異様に独占欲が強く、ジェルヴァイに惚れ、彼を自由にさせてくれません。しかしキス以上のことを求めると強く拒絶し、ひたすら結婚結婚と言ってくるという超重いだけの女性。
そして彼女には不仲らしい同居している妹アニェスがいます。ここにきてまさかの姉妹もの。アニェスは小柄で華奢な金髪美人、16歳に見える24歳。姉に隠れてジェルヴァイを誘惑し、部屋の中でいちゃこらする始末。ところがアニェスは千里眼の持ち主で、相手の過去が見えると自称し、街の人を家に読んでは占いをしている電波女だったのです。そしてどうもジェルヴァイの素性を疑っているようで……。ひょっとして俺の正体はもうばれているのでは?と不安を抱えながら、ジェルヴァイは結婚を迫るエレエヌと誘惑を繰り返すアニェスとの同居生活を続けていきます。そんな中で、死んだベルナアルの姉が家を訪ねることになってしまい、またひと波乱が起きてしまうのです。

身分詐称から始まり身動きの取れなくなった主人公が、ずぶずぶと悪女に絡め取られていく物語。しかしこの主人公も結構な酷い人間なので、ひたすら保身を図る人間たちによる泥沼な展開が繰り広げられることになります。この合間に、本当に過去が見えているらしきアニェスの謎、不可解な行動をとる登場人物などがあり、物語はおかしな方向へと突っ走ります。いったいだれが何をもくろんでいるのか?という不穏な空気をはらみながら、ラストへどどどどっと。終盤のどんでん返しよりも、最後の方で話ががらっと変わってしまうのが面白かったです。展開も早く読みやすく、終始引き込まれてしまいました。これはおすすめです。


「窓」マリオ・ソルダアティ

イタリア人である私は、20年間片思いをしている(そして相手はそれを知っている)英国人女性トウィンクルと再会した。2人は画廊で、20年前に行方をくらました、イタリア人ジイノの描いたと思しき絵を見つける。そしてトウィンクルはジイノを一緒に探してくれるよう私に頼んだ。実はトウィンクルはジイノが好きだったのだった。ざっけんなこらー、と思う私。しかし私はトウィンクルが大好きなのでその絵の手がかりを追う。その絵を出点していた女性たちは描いた人なんて知らない、と否定するのだが……。

他にほとんど訳書のないイタリア人作家によるイタリア人が主人公の小説ですが、舞台はイギリス。ミステリではなく(サスペンスとしても弱いけど)普通小説、恋愛小説に近いもの。確かに謎を中核にして話を進めてはいるんですが、登場人物の過去語り、恋愛観語りばかりでぶっちゃけ飽きました。だめだこりゃ。

女性たちの関係が謎で、またジイノがいまどこに生きているのか、ひょっとして彼女たちに監禁されているのではないか、それとも病院にいるのか、という大きな謎が立ちはだかります。っていうとミステリみたいなんですが、最終的に示された答えはなんつーか結局愛なのねという感じ。
それ以前に、ジイノがもうありえないレベルの女ったらしなんですよ。会う女性みんながジイノに惚れてます。俺は縛られるのが嫌なんだ、だからお前のことを心から愛しているけど一緒にはなれないんだ、とか言いながら20年前にトウィンクルを振ってたりしちゃうのです。なんだそら。
さらにトウィンクルもごめんねと言いつつ私をこき使い、私をいままで散々利用していたことを次々と告白します。ぼろぼろに打ちのめされた私は私で、くそぉしかし俺はこの女が好きなんだ許してやるそしていつか俺のもとに彼女が来てくれればいいんだ、とか考える始末。う、うん……勝手にすれば……。
そういうわけで、登場人物全員が理解できない行動をとっていて、最後まで読んでもあっはいという以上の感想が出て来ません。途中でだらだら恋愛観を語るシーンも(訳を含めて)少々つらく、100ページくらいの長さなのに非常に疲れました。

訳者の飯島正氏がこの作者の作品が大好きだったようで、「たとえ諸君がコチコチの本格推理小説のファンであっても、その親類つづきにこういうおもしろい小説があるということは、知っておいても損のないことだとぼくは信じる」と後書きで述べているのですが、まぁちょーっと違うんじゃねぇか、というか「窓」のチョイスが悪すぎるんじゃないか、と思います。他の作品読めないので何とも言えないんですが……。


書 名:牝狼 窓(1955,1951)
著 者:ボアロー&ナルスジャック、マリオ・ソルダアティ
訳 者:岡田真吉、飯島正
出版社:東京創元社
     現代推理小説全集 14
出版年:1957.09.20 初版

評価★★★★☆(牝狼)
評価★★☆☆☆(窓)
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