死への疾走
『死への疾走』パトリック・クェンティン(論創海外ミステリ)

二人の美女に翻弄される一人の男、マヤ文明の遺跡を舞台に事件は転がり加速してゆく。“ピーター・ダルース”シリーズ最後の未訳長編、遂に完訳!(本書あらすじより)

パズルシリーズ、というよりピーター・ダルースシリーズ6作目です。順番でいえば『巡礼者パズル』と『女郎蜘蛛』の間ということになります。『巡礼者パズル』でピーターとアイリス夫妻はひとつの危機を迎えることになるわけで、そのあとの作品はいったいどうなのさ……と気になっていたら、アイリスはほとんど登場しませんでした。まぁ『女郎蜘蛛』が『巡礼者パズル』のきちんとした続編ということでしょう。というわけで読んでみましたが。

読んでいる間、ずっと「もしかしてパトQの本格ミステリってワンパターンなんじゃね……?」という不安がぬぐえなかったのです。もしかしてこれいつもとおんなじパターンなのでは……? 犯人結局こいつじゃね……?
……いやほんとパトQさんごめんなさい。ワンパターンとか言いましたけど普通に面白かったです(土下座)。いやぁ今回も快調でした。むしろ『女郎蜘蛛』とかより好きかもしれません。

ピーターは旅行でマヤ文明の遺跡を訪れています。そこでひとりの若い女性に助けを求められ、しょうこりもなくピーターはそれに巻き込まれていきます。『女郎蜘蛛』に近い巻き込まれ型サスペンスと言えそうですが、ピーター自身が容疑者となるわけではないこと、むしろ積極的に行動を起こしていこうとする点で、大きく異なります。
しかも読み進めていくと分かるんですが、これ、かなり他のダルース物と雰囲気が違います。軽めのサスペンスというか、スパイ小説というか、要するに陰謀に巻き込まれ、美女が登場し、国を越えて犯人を追い、どこかから狙撃され、というように冒険色が強いのです。飯城さんの解説(相変わらず素晴らしい、勉強になります)でも異色作と述べられていますね。

ただ、むしろその雰囲気が非常に好み。『人形パズル』の上位互換?という感じでしょうか。アイリスを登場させず、『巡礼者パズル』のような愛憎劇ではなく、冒険サスペンスに終始させたところがむしろ分かりやすく楽しめました。
誰が味方か分からないスパイ小説のようなシチュエーションを、旅先を舞台にすることで生み出し(クリスティーっぽいですね)、次々と国を変えることで動きを作り出します。最後のどんでん返しは唐突にも見えますが、ワンクッション置くことで上手く演出しているようにも思えます。いや実際かなり驚きました。やっぱりクェンティンは本格とサスペンスを極めた人なんですね。
(ちなみに、どんでん返しを支える手がかりはあんまりなくて、事件をどう見るか?という、上手く説明つけたもん勝ち的なミステリは、本格なんでしょうか?ってのが昔から気になってるんですがあんまり言うと怖いから言いません)

そういうわけで、『死への疾走』、おすすめです。いやー面白かったです。ピーター・ダルースシリーズは極力『迷走パズル』『俳優パズル』『巡礼者パズル』『女郎蜘蛛』の順番だけは維持した方がいいと思うんですが、『死への疾走』はその中でも浮いているというか、単発色が強いので、ここから読み始めても問題ない気がします。
ちなみに今年はもう1作、パトリック・クェンティンの『犬はまだ吠えている』が翻訳されています。こっちも読んでみないとかなー。

書 名:死への疾走(1948)
著 者:パトリック・クェンティン
訳 者:水野恵
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 145
出版年:2015.04.30 初版

評価★★★★☆
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