紺碧海岸のメグレ
『紺碧海岸のメグレ』ジョルジュ・シムノン(論創海外ミステリ)

紺碧海岸の酒場でメグレ警視が出会った女性たち。黄昏の街角に残響する人生の哀歌。長らく邦訳が再刊されなかった「自由酒場」79年の時を経て完訳で復刊!(本書あらすじより)

メグレ警視シリーズ長編の中で、唯一戦前訳しかなく、入手が最も難しかった『自由酒場』がなんと復刊されました。すごい時代だ……いったい今は何世紀なんだ……。
ここのところ、メグレ警視シリーズってどういう感じなの?と聞かれることが多いんですが、何とも答えにくい質問だなと思うのです。いや、自分だって数作しか読んでないんですが。本格ミステリを期待してもダメだし、警察小説でもないし、捜査小説としても全く凝ってないし。個性的な登場人物がいるわけでもなく、メグレ警視は頑固おやじらしいキャラクターはあってもメグレ警視で魅せるシリーズというわけでもありません。ただ、冒頭で提示される事件はちょっぴり特徴的。そんな具合です。
登場するのは等身大で、しょぼくれて寂れた感じのする人間が多い気がします。そんな人間たちの間をメグレ警視は動き回り、話を聞きながら、殺人事件を解決に導きます。簡単に言えば人情ものなのかもしれません。ただ個人的には、メグレ警視シリーズの一番の魅力はどこか諦念と、さらに希望を持って、人間を見つめ描こうとする、シムノンならではの抒情性のある文章なのではないかな、と思うのですが、どうでしょう。まぁつまり読まなきゃ分かんないんですけど(笑) コーネル・ウールリッチとかに近いものがあるかもしれません。都会派抒情小説。

なんでこんなことをグダグダ書いているのかと言うと、つまりメグレ警視には人間に満ち溢れ、隣人に関心の薄そうな都会、特に様々な職業の人間の活動時間帯である夜の都会が似合うよな、と思っているということを言いたいからなのです。そしてこの『紺碧海岸のメグレ』は、メグレ警視が紺碧海岸、つまりコートダジュールに出向き、ぐったりと暑い田舎を特命を帯びて動き回る小説なのです。イレギュラーな作品と言っていいんじゃないでしょうか。要するにメグレ警視の持ち味がほとんど生かされていないような気がするんです。

事件は一人の男が殺されたところから始まります。彼と同棲していた若妻と母親、彼が行きつけにしていたバーのおかみと出入りする女の子、といったように、その男と周囲を取り巻く女性との関係が中心となります。この殺された男性がちょっとした人物だったため、メグレ警視は上からの命令で、荒波を立てることなく解決するよう要請されて紺碧海岸に赴くのです。
メグレ自身がそもそも紺碧海岸のヴァカンスの空気が合わないと始めから何度もこぼしているように、全体として気だるい雰囲気が特徴的なのですが、どうもうまく機能していないような気がします。死体を見ますかと現地の警察に聞かれて、いや、後にする……とダラダラとしか捜査できないメグレ警視。捜査中に見つけたバーのことがどことなく気になって何度も足を運んでしまうメグレ警視。倦怠感の中、話は少しずつ進み、真相が明らかになります。
メグレ警視物って極端なハズレはないと思いますし、この作品も悪くはないんですが、あんまり褒めるところもなかったのです。人情ものとしても終わり方がやや急な感じでした。

というわけで他のメグレ警視から読んだ方がいいよと言いたいところなんですが、いま新刊で買えるメグレ警視ってこれしかないんですよね……どうにかならないのかな。

書 名:紺碧海岸のメグレ(1932)
著 者:ジョルジュ・シムノン
訳 者:佐藤絵里
出版社:論創社
     論創海外ミステリ 140
出版年:2015.01.30 初版

評価★★★☆☆
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