雪の断章
『雪の断章』佐々木丸美(佐々木丸美コレクション)

迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝杷祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが……。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。(創元推理文庫版あらすじより)

おやしらずを引っこ抜いて以来、歯と顎が痛すぎてブログどころではないTYです。
さて、月イチ国内ミステリ、2月は佐々木丸美のデビュー作でした。読んだのはブッキング版です。
もうぐうの音も出ないほどの大傑作ですよ、えぇ。300ページ近く組み立てられてきたものが一気に動き出すラストが無性に読者の感情を震わせてくるのです。意外とミステリ要素の強い話が、ありがちなストーリーと豊かすぎる心情描写と美麗すぎる文章にのせて紡ぎ出される様は唯一無二。完璧です。これがデビュー作とか恐れ入ります。

孤児である主人公飛鳥は横暴な本岡家に引き取られるも、紆余曲折あって独身男性祐也のもとに身を寄せることになります。様々な人間に囲まれて成長していくなかで、飛鳥は幸せに、ですが複雑な感情を抱えるように。やがて殺人事件が発生し、飛鳥は再び本岡家と関わることに……。とあらすじ書きましたがこれじゃない感がすごい……。

一見ありがちな孤児物のようで、実際メインストーリーはそうなのですが、文章がまずハンパじゃないのです。章で区切らず合間合間に幻想的で童話的なシーンを挟み込みながら、ひたすら飛鳥の心を描き続けるのですが、その文体がとんでもなく独特な繊細さを持っています。強く自分を持ち、それでいて自分の考えに固執しているようにも見える飛鳥を、作者はゆっくりと話を進めながら描き出していきます。
要するに少女の成長ストーリーで、結構これが読んでいてつらい話なんですよね。触れたら割れてしまいそうな危うい飛鳥の気持ちに触れ続けながら、周囲に抵抗し続ける彼女を見続けなければならないんですから(祐也さんとの関係がこれまたいいんだ)。だけどこれに思いっきり引き込まれてしまうんですよ。話の内容というより、文章がめちゃくちゃ上手いんだと思うんですがどうなのかな。上手いってか個性かなぁ、これは。

で、てっきりミステリじゃないのかと思ったらちゃんと殺人事件が起きます。ただ、これも捜査が着々と進められるというより、飛鳥目線を貫くが故に、飛鳥の周りを流れていく事象の一つとして処理されていくのが面白いですね。ただ、彼女の心に大きなあるものをがっつり残していくことになるのですが……これがまたえぐいなぁ。
そうして積み上げられて描き出された飛鳥という少女が、最後、大きな試練に立ち向かうことになります。もうここは圧巻。感情が怒涛の勢いで文章からあふれ出し、飛鳥と読者を殴り倒していくのです。そして、美しい余韻を残しながら、物語は静かに幕を下ろします。素晴らしい。あとちゃんとミステリじゃん。

というわけで、これはおすすめ。他の作品が大いに気になる作家さんができました。

書 名:雪の断章(1975)
著 者:佐々木丸美
出版社:ブッキング
     佐々木丸美コレクション1
出版年:2006.12.25 初版

評価★★★★★
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