蝶の夢 乱心館記
『蝶の夢 乱心館記』水天一色(アジア本格リーグ)

唐の天宝年間、玄宗皇帝の御世。都長安の西に建つ乱神館の女館主、離春は容貌魁偉、陰陽道に通じて鬼神をあやつり、降霊の術をもって生業としていた。ある日、乱神館を訪れた富豪封家の息子亦然は、離春の力で母の霊魂と会わせてほしいという。母親の玉蝶は、幽霊伝説の残る邸内の井戸端で五日前に横死をとげていたのだ。封家へ乗り込んだ離春は、その不思議な力で、事件の背後に隠された驚くべき秘密に迫っていく。中国推理小説界の新星が放つ、時代ミステリーの傑作。(本書あらすじより)

現代海外ミステリ読書会の課題本にしたもの。初アジアミステリですよ。海外ミステリ読者はアジアのミステリにあまり目を向けていないのはほんとまずいですよねぇ。反省反省。国内ミステリ読者にも海外ミステリ読者にも見向きもされないアジアミステリをもっと応援しましょう。
というわけで、水天一色による本格ミステリ。島田荘司選アジア本格リーグという、島荘が選んだアジアミステリ傑作選みたいなシリーズの中の1冊です。唐代を舞台にした陰陽師探偵と言うとキワモノっぽいのに、最後まで読むと非常に堅実なつくりであることが分かるクリスティー流本格ミステリ。中盤のダレはマイナスポイントですが、一切の無駄なく構成された物語はかなりの出来栄え。古典本格好き向けです。

主人公、離春は降霊を生業とする人物……なのですが、本人は幽霊の類を全く信じていません。ただずば抜けた観察眼と推理力を持ち、それによって依頼人に霊媒力があると信じ込ませているのです。殺人事件で殺された女性を呼び出すことを求められ、情報を集めようとすることになります。
というキャラ付けの濃さと比べて、容疑者となるお屋敷の人間・使用人たちはテンプレな個性持ち(欧米風ならおしゃべり好きの女中と偏屈な執事的な)ですが、このしっかりとした描き分けはクリスティーお得意のキャラ造形を思い出します。殺人事件そのものに魅力がないというのもクリスティーっぽいですね。
さらに探偵は容疑者の感情・心情から行動を読み解いていくのですが、え、その推理飛び過ぎじゃね?と思わせる感じまでクリスティー。ミスディレクションの決め方までクリスティー。ということでまさにクリスティーインスパイアな本格ミステリなのですが、中国で唐で陰陽師なので、なんとも言えない魅力があります。まぁ良く出来てますよね、ほんと。
ぐるぐると容疑者を渡り歩きインタビューしながら情報を集める×2周、という尋問の仕方もクリスティーで、ここの中だるみについては悪いクリスティーです。章の引き、手がかりの出し方が上手くなるともっとリーダビリティも上がるかもしれません。

というわけで、総じて割と楽しめた作品でした。実力を感じるので、ぜひ他の長編を読んでみたいところですが……翻訳される予定はないんだろうなぁ……。

書 名:蝶の夢 乱心館記(2006)
著 者:水天一色
訳 者:大澤理子
出版社:講談社
     島田荘司選アジア本格リーグ 4
出版年:2009.11.20 1刷

評価★★★★☆
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