2009.06.06 『鑢』
『鑢』フィリップ・マクドナルド(創元推理文庫)

大蔵大臣ジョン・フード殺害さる─特報をいち早く掴んだ〈梟(アウル)〉紙は、第一次大戦の英雄にして明晰な頭脳の主、アントニイ・ゲスリン大佐を現地へ送り込む。顔の広さと炯眼をもって事に当たるゲスリンの推理の過程は、終盤に至って特派員の原稿として示される。客観データと論理的考察が導く真犯人とは?マザーグースの調べに彩られた、名探偵ゲスリンの記念すべき初登場作品。 (本書あらすじより)

何やら創元推理文庫で復刊フェア2006なるものがあったらしく、1983年に日本で出版されて以来絶版だったやつです。作家さんも「幻の作家」とか日本で呼ばれちゃうくらいあんまり訳されていない人です。

この本、1924出版とだけあって、黄金期らしさがにじみまくってます。特に前半は探偵以外(よーするにケーサツ)があまりにもアホだと思ってしまった自分(だって、時計が倒れて止まってさしてる時刻っつーもんは、何かあるとおもうじゃないですか)ですが、全体的によく出来てます。主人公ゲスリン大佐は初登場で、副題に「名探偵ゲスリン登場」なんて書いてあります。この人は、ある種ものすごい経歴の持ち主で、だれしも一目置くような人。しかも頭脳明晰なもんだから、まさに素人探偵にピッタリな、感じのいいやつです。

そして、珍しいのが警察の方々。普通、警察は素人探偵不審ですが(特に黄金期)、何か警部は借りがあるとかないとかで、ミョーに積極的です。警察が犯人を捕まえた後も、ゲスリン大佐が違うと思って捜査しているのを見て、「あなたがなぜまだ捜査するのか、我々凡人にはさっぱりわからないんですよ」とまで言っちゃう始末(皮肉でなしに)。

しかし、読み終わったときは非常によかったと思ったのですが、今考えると、あまりいいミステリとは思えません。その理由は、11年前に出ているE・C・ベントリーの『トレント最後の事件』にあまりに本書が似ているからでしょう。つまり、新聞社から特派員として素人探偵が出てくることとか、探偵のロマンスが入っていることとか、というか雰囲気全体が似ています。そして、個人的意見ですが『トレント最後の事件』の方が圧倒的に出来がいいように思えます。

まぁ、読んで損はないミステリです。少なくとも、僕的にはヴァン・ダインよりはかなりいいです。作中の会話に出てくるルコックとかわかる人はよっぽどミステリ好きだと思うんですが、作者の、いままでのミステリ作家観なんかも結構面白かったですね。ぶっそうな題名な割に、かなり淡白で、落ち着いています。

うちの近所の図書館には、マクドナルドの『迷路』『エイドリアン・メッセンジャーのリスト(ゲスリン最後の事件)』と結構そろっています(そして『鑢』はない、と)ので、これからも手にとって見たいところです(特にエイドリアンを)。

書 名:鑢
著 者:フィリップ・マクドナルド
出 版:東京創元社
   創元推理文庫 Mマ-8-2
発 行:1983. 初版
     2006.10.13 2版

評価★★★★☆
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