ギリシャ棺の秘密
『ギリシャ棺の秘密』エラリー・クイーン(角川文庫)

盲目の大富豪・ハルキス氏の死が全てのはじまりだった―。葬儀は厳かに進行し、遺体は墓地の地下埋葬室に安置された。だが直後、壁金庫から氏の遺言状が消えていることが発覚する。警察の捜索の甲斐なく、手掛かりさえも見つからない中、大学を卒業してまもないエラリーは、棺を掘り返すよう提案する。しかし、そこから出たのは第二の死体で…。天才的犯人との息づまる頭脳戦!最高傑作の誉れ高い“国名シリーズ”第4弾。(本書あらすじより)

なんと、まだあの『ギリシャ棺』を読んでいなかったのです。1932年組の『X』も『Y』も『エジプト十字架』は読んだというのに。クイーンはもう12冊くらいは読んでいるというのに。いやもう最近国名シリーズというか初期クイーンを読む気力がわかなくて。論理ロンリーだし。後期クイーンの圧倒的ストーリー力を見ちゃうとねぇ。
とはいえここは避けては通れぬ道。読みやすいと噂の角川新訳版で挑戦です。というか角川新訳クイーンすらまだ読んだことなかったぞ。
というわけで、クイーン1932年4大傑作の1つ。正統派で堅実堅牢な本格ミステリ。読者にどこまで先を読ませ、どこまでを読ませないか、そこらへん作者がしっかりと計算しているためか、どんでん返しが非常に上手い作品となっています。なるほど、これは代表作。ところでエラリーの失敗譚とよく聞くけど嘘じゃないですかーやだー。

事件は、大富豪の死→葬儀の時に不可能状況での金庫の紛失→棺を掘り返すと新たな死体が……という具合で、基本的に1つの屋敷内が舞台となります。ヴァン・ダインみたい。エジプト十字架が広域的で連続殺人感が強く、いくぶん冒険小説的なところもあるのに対し、ギリシャ棺はより館的で、密室感があり、単体の殺人事件の捜査小説としての趣が強いですね。そのためストーリー性には欠ける代わりに、論理パズルとしての側面を濃厚に楽しめるようになっています。

そんでもって犯人vs探偵という構図で600ページ近く持たせているんです。ひたすら偽の手がかりをばらまく犯人! それに騙されたり見破ったりしながら犯人を追うエラリー! ぶっちゃけ犯人がなぜそこまで凝らなきゃいけないのか大いに疑問ではありますが(相手の思考の裏の裏の裏を読むのって超非リアル感があるし上手くいかなそう)、この点については犯人のあるポイントによって、無理感をある程度抑えているのがよく出来ています。さらにこれを別の方向から使ってミスディレクションに生かしているのもすごい。見事に騙されちゃいました(なんだこの分かりやすすぎる犯人は難易度ひっく、と思って読んでたら完璧に間違ってた)。だらだら捜査して推理してで600ページかけているようで、ラストまでが相当入念に組み立てられているのです。

欲を言えば、もう少し登場人物の掘り下げに分量を割いて欲しかったかなと。ハルキス一族とその関係者が、いずれも親族やら職業やらを割り振られているだけで、出て来るのは一堂に会しているところばかりなので、容疑者としての怪しさのバランスが弱い気がします。これはクイーンさん書くのさぼったのでは……。
クイーンってクリスティーとかと違って容疑者を一同に会させ、みんなに色々言わせて尋問を進め、個別尋問はあんまりやらない印象があります。ヴァン・ダインもそうか。アメリカの特徴なのかな。

というわけで、新訳版ということもあるのでしょうが、思ったよりすらすらと楽しく読むことが出来ました。やはりこの手の代表作は手にとっておかないと……。

書 名:ギリシャ棺の秘密(1932)
著 者:エラリー・クイーン
訳 者:越前敏弥、北田絵里子
出版社:角川書店
     角川文庫 ク-19-8
出版年:2013.06.20 初版

評価★★★★☆
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://yossiworld.blog72.fc2.com/tb.php/1099-614adb79