窓辺の老人
『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿Ⅰ』マージェリー・アリンガム(創元推理文庫)

クリスティらと並び、英国四大女流ミステリ作家と称されるアリンガム。その巨匠が生んだ名探偵キャンピオン氏の魅力を存分に味わえる、粒ぞろいの短編集。袋小路で起きた不可解な事件の謎を解く「ボーダーライン事件」や、20年間毎日7時間半も社交クラブの窓辺にすわり続けているという伝説をもつ老人をめぐる、素っ頓狂な事件を描く表題作など計7編のほか、著者エッセイを併録。(本書あらすじより)

なんと、21世紀だというのにアリンガムの短編集が出ちゃいました。うおおお創元さん、ナイス、ナイスですよ創元さん。おまけに副題が「キャンピオン氏の事件簿Ⅰ」……ということは! 「キャンピオン氏の事件簿Ⅱ」を期待しちゃっていいんですね! そういうことですね!
ちなみに自分は『判事への花束』を読んで『幽霊の死』を積んでいるだけ、というありさまなので、アリンガムの創造したキャンピオン探偵についてはぶっちゃけよく知りませんでした。読んでみたら、「紳士」ってことくらいしか特徴がない……こ、この時代の名探偵にしては珍しいほどの好青年。ただ、読んでいくとこの好青年っぷりにはまっていきます。他の登場人物がみんなやかましいドタバタした人間なだけに、なんかキャンピオン氏を見ていると安心します。うーん、これもまたナイスなキャラ付けと言えるのでしょうか。

というわけで『窓辺の老人』です。謎解きミステリらしさを中心にしながらも、ガチな安楽椅子探偵から冒険小説風、コンゲームから奇妙な味まで、あらゆる味付けを施せるアリンガムさんの持ち味がフルに発揮された好オリジナル短編集。読んでいて安定感があり、非常に良いです。これは続刊にも期待。
先ほども言ったように、黄金時代の探偵の中ではキャンピオン氏は断トツで癖も嫌味もないタイプの好青年だけど、この好ましさがむしろ安定さを保証しているようで、だんだんはまってきます。人付き合いのいい素人探偵と、その周りの様々な登場人物の掛け合いで十分に楽しめるのがポイント。

クラシックミステリ好きであれば読んで損のない短編集なので、ぜひぜひ。17行で300ページと分量的にも読みやすくなっております(あれ、それにしては値段が……)。表紙がもっと明るければ、もっと手に取ってもらえると思うんだけどなー。ちょっともったいないですね。
以下、個別に感想を。ちなみに収録作は1930年代の作品が中心で、代表長編の多い初期頃ということになります。ベストは「ボーダーライン事件」……と言いたいのですが、お気に入りは「犬の日」。飛び抜けた傑作がある、という感じではないですね。

「ボーダーライン事件」(1936)
監視された通りでの不可能犯罪というよくあるネタですが、てっきり力技のトリックが炸裂するのかと思いきや心理的な手がかりがものを言う良本格。ちゃんと伏線あるし。ATBの常連短編なのもなるほどという感じです。

「窓辺の老人」(1936)
一人の女をめぐる争いと、20年間毎日クラブの窓辺に座り続けてきた老人の物語が交錯します。
明らかに何者かが何事かを仕組んでいる臭い展開そのものが普通に魅力的で、情報は後出しだけどなかなか楽しい作品。それにしても犯人後手後手ですね……。

「懐かしの我が家」(1937)
旅行先のモンテカルロで知り合いの夫人にあったキャンピオンは、彼女が留守中怪しげな夫婦に屋敷を貸していることを聞きます。
やや冒険よりの探偵譚で、キャンピオンの作戦がどうにも無策なのはアレですが、ある人物については面白い伏線があるため、通底する本格スピリットを感じるというか。

「怪盗〈疑問符〉」(1938)
最近活躍中の背中が?に曲がった謎の怪盗、ひょんなところからその足取りが……。
キャンピオン氏の推理の根拠が本人も言うようにかなり馬鹿げていますが、これは全体としてはドタバタコメディに近い作品でしょうね。端役のお間抜けさや賢さを楽しむ一編。

「未亡人」(1937)
悪党〈未亡人〉が何やら手下を集めているらしい。そんな中、老舗のワイン商が集められます。
もうばれっばれの展開と詐欺だけど、これはこれでありかなー。アイデアの突飛さが、なんというか、1930年代でもなきゃうまくいかなそうな感じがします。

「行動の意味」(1939)
高名で老齢のエジプト学者が突如ダンスホールに通い出した理由とは。
という日常の謎みたいな話かと思いきやかなり壮大なお話に。キャンピオン氏の縁のお話で、推理要素は今回ほぼなし。

「犬の日」(1939)
海岸でキャンピオンが見かけた奇妙な老人と娘と犬の正体は。
ごく短い短編で、ある種幻想的な雰囲気すら漂っています。ところが真相は……うわーお、これには笑っちゃいました。アリンガムって、こういう不思議な話も書けるんですね。感心。

「我が友、キャンピオン氏」(1935)
アリンガムによる、キャンピオン氏覚え書。

書 名:窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿Ⅰ(1935~1939)
著 者:マージェリー・アリンガム
訳者:猪俣美江子
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mア-12-2
出版年:2014.10.17 初版

評価★★★★☆
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