モノグラム殺人事件
『モノグラム殺人事件』ソフィー・ハナ(早川書房)

名探偵エルキュール・ポアロは、お気に入りの珈琲館で夕べのひとときを過ごしていた。灰色の脳細胞の束の間の休息。そこへ、一人の半狂乱の女が駆け込んできた。どうやら誰かに追われているようだ。ポアロが事情を尋ねると、女の口からは意外な言葉が。彼女は「殺される予定」だというのだ。しかも、その女ジェニーは、それは当然の報いであり、殺されたとしても決して捜査はしないでと懇願し、夜の街へと姿を消した。同じ頃、ロンドンの一流ホテルで三人の人間が殺害された。すべての死体は口にモノグラム(イニシャルの図案)付きのカフスボタンが入れられていた。ジェニーは被害者ではなかったが、関連を嗅ぎ取ったポアロは、友人の刑事キャッチプールとともに捜査に乗り出すのだった。名探偵ポアロが帰ってきた! イギリスの実力派作家が描く、世界でもっとも有名な探偵の新たな挑戦!(本書あらすじより)

とんでもない作品が出ました。なんと、ポアロ物の正統続編なのです。ホームズの正統新作みたいな感じで、アガサ・クリスティー財団がついにポアロ物の新作として認めた作品が世に出たのです。これをクリスティー好きの自分が読まずにいられましょうか。
というわけでどんなものかと期待して読んでみたら……う、うーん?
まず言っておくと、本格ミステリとしては申し分のない出来だと思います。思いますが、ポアロ二次創作としてはお粗末極まりないし何か色々とっ散らかってるし、あーこの作者謎解き探偵物書きなれてないなーって印象を受けます。ポアロを登場させた罪は大きいですよ、おとうさんこんなのを正統とは認めませんよ。

まず、そもそも誰ですかこのおっさんは。くどすぎるフランス語、原作8倍増しくらいの外国人らしさ全開の大げささ。こんなんはポアロじゃありません。初期ポアロのうざさを強調しすぎています。それに1929年は舞台なのに全く時代感がないのもダメ。まぁクリスティーはあんまり時代性出さないですけれども。
扱う事件はというと、いきなりホテルで口にボタンを突っ込まれた死体が3つ出て来るわ、悪意に満ちた田舎の噂とえげつない過去の事件が出て来るわ、それぞれクリスティーらしくなくもないんですが(前者は『ABC殺人事件』っぽい気がしなくもないし、後者はミス・マープル物の長編っぽいと言えなくもない)、組み合わせちゃう上に残酷さを強めた感じなんです。さすがにこれではクリスティーっぽいとは言えません。いきなり死体3つとかもーないよ、なさすぎるよ。
そして一番は人物描写。クリスティーの簡潔にしてテンプレでありながらしっかり印象を残す描き分けられたキャラクターはここにはいないのです。描かれなすぎか、強く描かれ過ぎかのどちらか。ホテルの支配人のうざさを極めた感じとか、ホテルスタッフのキャラの薄さとか。
ポアロの相棒にして語り手キャッチプール刑事は、やたらとポアロに異議申し立てるヘイスティングズのキャラクター性を10倍増しにした感じです。暗い過去をちらつかせといて何てこたぁなかったんですけどなにこの卑屈弱気刑事。散々ポアロにケチ付けてあげく全部任せかよちゃんとしろふざけんな(冷静でいられないクリスティーファン)。

さて、ここで、『モノグラム殺人事件』からポアロ物のシリーズ正統最新作としての部分を全部頭から追い出して、純粋に本格ミステリとして見てみましょう。すると……むむむ、こちらは結構出来がいいのです。手がかりを灰色の脳細胞(笑)からかなりポアロらしい推理で分析し、事件の矛盾点や容疑者の細かな証言から推理を積み重ね、実に論理的に真相を導き出しているじゃあないですか。これは本当に鮮やか。事件関係者の当日のすべての動きを解き明かす推理シーンはかなり熱いと思います(演出性には欠けるけどね)。結果、非常に複雑な全貌があらわになるわけです。
クリスティーにしては複雑すぎ、という指摘も多いようで、そうだとは思いますが、やっぱりこの本格ミステリ部分については高評価にならざるを得ないんだなぁ。となると、本当にもうポアロとかいうキャラクターがね! 邪魔でね! 最後のなんだあれはどっかで見たことあるシーン! パクリかクリスティーの!

というわけで、お分かりのように、どうこの本をとらえたらいいのか分かりません。大変困ってます。ソフィー・ハナさん他にどういうの書いているんですか。あとクリスティーの孫のマシューは最初の数十ページを読んでクリスティーそっくり!とGOサイン出したらしいけど俺は信じないぞ。この程度を公式で認めるのはなぁ……デビッド・スーシェのドラマ『名探偵ポワロ』が完結したから話題作りかよとか疑っちゃうよ……。
というわけで、クリスティーを期待して読むのだけはダメです。似て非なるものです。良質な本格を読みたいのであればおすすめ。

書 名:モノグラム殺人事件(2014)
著 者:ソフィー・ハナ
訳 者:山本博、大野尚江
出版社:早川書房
出版年:2014.10.25 初版

評価★★★☆☆
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