ライフボート
『ライフボート』シャーロット・ローガン(集英社文庫)

1914年、大西洋で豪華客船が爆発。地獄絵図さながらの混乱を脱したかに見えた救命ボートだが、定員を超えた人数が乗り込んでいることが判明。床からは海水が浸水し、日々食糧は減っていく。死の恐怖が迫る一方、22歳のグレースにとってリーダーのハーディは頼もしく思えた。しかしその独裁的な態度から、人々は彼に不信感を募らせはじめる。そして嵐が訪れ……。21日間の漂流の末に待ち受けていたものとは!?(本書あらすじより)

え、えー……あの良作連発の集英社文庫がいったいどうしちゃったのさ。
というわけで、去年の新刊でした、これ。乗員可能人数を超えた救命ボートの漂流物、として期待されるような、乗員同士での争いやサスペンス感もないことはないんだけど、はっきり言ってこの作者が何を書きたいのかが分かりません。物語もあっけなく終わってしまい、消化不良気味になること間違いなし。うーん……これははずれだな。

豪華客船が沈没し、生き残った女性が裁判にかけられるところから物語は始まります。その女性の回想の形で、救命ボートの漂流中に起きた出来事が語られていくという構成。なぜ裁判にかけられているかという謎に加え、ところどころに沈没に関して不可解なことがあったことがほのめかされていくなど、物語をけん引する「謎」自体には事欠かないように見えます、一見。

で、まず、この女性グレースの実に主観的な一人称の語りが非常にうさん臭いのですね。結構主体性のない、はっきり言って弱い人間だと思うんですが、この人の見た船の状況がどこまで信用できるのか、まったく分からないのです。誰かを否定的に語っていたとしても、客観的にそうなのか全く分からないし、肝心なところを見逃していそうな危うさもあります。グレース自体もそうですが、そもそも登場人物全員が読者の感情移入を阻むかのような不快さと弱さを見せているのもポイントですね。
この生き残ったグレースの罪が明らかになるところが話の流れ的に最大の山で、そこに持っていきたい気持ちは分かります。分かりますが、そのあとがもうなぁなぁで終わらせてしまうから困っちゃうんですよ。ボートの漂流のラスト部分なんて、もうあれですよ、数ページで片付けられちゃうんですよ。21日間の漂流と宣伝しておきながらラスト10日くらい何にもなし。裁判もそれでいいの?っていう終わり方。
さらにところどころでほのめかされていた船の沈没の原因とか怪しい船員に関する話も、結局何一つまとめられないまま終わってしまうので消化不良も甚だしいのです。え、なんなの、なんでここで終わっちゃうの??と読後感謎いっぱい。たぶん作者はその自覚ないと思うんだよな……タチ悪いな……。
主人公の女性が「罪」を犯した理由も、描き込みが足りないせいでよく分かんないのです、なんでこうなっちゃうのか。群像劇としてもやっぱり描き込みが足りなくて、中心人物ですら「神々しい人」とか「頼れる人」とか下手すると「牧師」みたいに、「そういう人」として描写されるだけで片付けられちゃうのもダメ。短くて読みやすいんだけど、さすがにねぇ、この程度ではねぇ。

というわけで、いろいろ不満なのでした。話が話だけに読ませるから、ばっと読めてばっと読み終わりますが、これでは物足りません。むしろこんなものより、漂流物としておすすめされた傑作らしい『パイの物語』を読みたいですわたし。

書 名:ライフボート(2012)
著 者:シャーロット・ローガン
訳 者:池田真紀子
出版社:集英社
     集英社文庫 ロ-10-1
出版年:2014.05.25 1刷

評価★★☆☆☆
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