皇帝のかぎ煙草入れ
『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー(創元推理文庫)

フランスの避暑地ラ・バンドレットに暮らす若い女性イヴは、婚約者トビイの父サー・モーリス殺害の容疑をかけられる。夜更けの犯行時には現場に面した自宅の寝室にいた彼女だが、部屋に忍びこんだ前夫ネッドのせいでアリバイを主張できない。完璧な状況証拠も加わって、イヴは絶体絶命の窮地に追いこまれる──。「このトリックには、さすがのわたしも脱帽する」とアガサ・クリスティをして驚嘆せしめた、巨匠カー不朽の本格長編。(本書あらすじより)

言わずと知れたカーの代表作(そうですまだ読んでなかったのです)。カーらしい豪快さとかオカルティズムとかがなく、非常に端正な出来の本格ミステリで、クリスティーなどに近い、むしろ異色作、なんて評価もよく聞きますが、なるほど、読んでみると確かにその通り。カーにしては補助要素というか盛り上げ要素が少なく、殺人容疑をかけられた女性を、トリックを見破った探偵が救うという、雑味のないストレートな本格ミステリです。ただ、肝心のトリックが微妙に弱い、と個人的には感じられたのですが、どうでしょう。

主人公の女性イヴは窓越しに隣家ローズ家の殺人の目撃者となりますが、もろもろ証拠があっていろいろ疑わしい状況に陥ってしまいます。この証拠の多様さがなかなか面白く、読者が説明できること(イヴの服についた血とか)だけでなく、服についたかぎ煙草の欠片など説明できないことまであるため、非常に謎がスリリングです。
で、そのトリックはある点に気付けるかどうかにかかっていまして、細かいところまで推理できるかはともかく、そこに気付くとよく分からなくてもほぼ犯人が確定してしまいます。結構綱渡りにヒントを出しているせいで、気付いてしまったのが本当に残念。もちっと解決場面で驚きたかったです。ただ、それを隠すための叙述の巧みさには感心しました。

それ以外の要素は、わりと適当なローズ一家の人物描写(おじさんパイプ咥えてるだけじゃん)とか、イヴが疑われてからのもったりした展開とか、カーらしい魅力を排しているだけに、まぁ普通。イヴの婚約者であるトビイのクソっぷりとかはなかなか読ませるとは思います。こういうミステリは中学生のうちに読むべきでしたよ、うん。
まぁカーはまだまだ読みたい作品あるので、そっちからちゃんと潰していかないとですね。『囁く影』とか『緑のカプセルの謎』とか『ビロードの悪魔』とかそのへんです。カーらしいカーが読みたいな、とりあえずは。

書 名:皇帝のかぎ煙草入れ(1942)
著 者:ジョン・ディクスン・カー
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mカ-1-14
出版年:2012.05.25 初版

評価★★★★☆
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