シュロック・ホームズの回想
『シュロック・ホームズの回想』ロバート・L・フィッシュ(ハヤカワ・ミステリ文庫)

前作『冒険』中の事件を知る読者諸賢にはすでにご存知のことであろう。シュロック・ホームズはもういない! あの恐るべき絶壁から宿敵マーティ教授の後を追うかのように転落していったホームズに、どんな奇跡が残されていたというのか。だが、それは起ったのだ。悲嘆にくれるワトニイ博士の前に、バイオリンを奏でるホームズが立っていたのである! 颯爽と甦った叡知の人が名豚失踪にからむ不可思議な謎を解き明かす上記「シュロック・ホームズの復活」をはじめ、滑稽かつ機知に富む冒険の数々を収めた、シャーロキアン垂涎のパロディ短篇集。(本書あらすじより)

この間『シュロック・ホームズの冒険』がなんと復刊されるという驚きの事態になりました。自分もおすすめしておきます。特に前半の短編はアイデアのばかばかしさが素晴らしいです。ホームズのパロディの最高峰と言われるのもけだし当然でありましょう。
というわけで、せっかくなので積んでいた『シュロック・ホームズの回想』も読んでみることにしました。シュロック・ホームズ物は基本的に、まず事件らしきものが起き、ホームズがそれに乗り出し、とんでも論理で真相を導き出し解決するんですが、実は本当の真相には全くホームズは気付いていなく……というのがテンプレとなっています。加えてしょうもないギャグが挿入されたり。英語の掛詞なんかもふんだんに用いられているので、そこらへんは日本人にはかなり厳しいのですが、それでも十分に楽しめます。
で、この第二短編集ですが、第一短編集以上にくだらない、本当にただのおバカなパロディになってますね。全体的なクオリティは圧倒的に劣っちゃったなぁ。真相の読みづらさも今回はほとんどなし。全体的に暗号物に頼りすぎです。ただ、ホームズ周りのレギュラー人物が多彩になっているのは良いですね。レストレード警部もどきとかアイリーン・アドラーもどきとか。
ベストは「大トレイン盗難事件」、次点が「ホイッスラーの母蒸発事件」。いずれもホームズの旧友なるフランス人探偵デュパンが登場する話です。
以下、個別に感想を簡単に。

「シュロック・ホームズの復活」(1964)
モナコの崖の上でマーティ教授と死闘を繰り広げ、うっかり落っこちたホームズが復活!(棒読み)
……しかしこれ、あの人も死んでないですね? 事件は「空き家の冒険」……ではなく、消えた豚を探すというもので、まぁ安定の展開です。豚探しは「名馬シルバー・ブレイズ号」を、地所の中にジプシーが住んでいるというのは「まだらの紐」を思い起こさせます。

「むこうみずな相場師」(1965)
金融業者の飛び降り事件をクリスクロフトが依頼しにきます。
1929年の事件……というわけでした。暗号のこじつけ的な解決がすごくシュロック・ホームズっぽいです。

「寡婦のタバコ」(1966)
煙草屋を営む中国人女性が、最近若い店員を雇ったら、彼の作る煙草はバカ売れなのだが素行の悪い若者が店で暴れるようになった、と依頼してきます。
「赤毛連盟」っぽい要素も。窓から依頼人を見つけたホームズの推理が面白いですね。『回想』は真相を最初から読者に明かしてしまうパターンが多いのでしょうか。

「アルスター切手の謎」(1967)
兄クリスクロフトが、英国のクラブに対して外国から仕掛けられている陰謀の解決を依頼してきます。
例によって暗号をホームズが複雑に解き、真相はどこへやら……と思いきや、今回は暗号が二段構えで面白いですね。偶然なのか、ホームズが当たっていたのか……。

「スリークォーターズ紛失事件」(1967)
え、またクリスクロフトの依頼なの?
ついにクリスクロフトだけでなくワトニイもいい加減な性格であることが判明。患者ほったらかして事件に向かいます。服飾がテーマで、ホームズが時代を変えるくだりが楽しいです。今回も表の真相は見えやすいかなー。

「ホイッスラーの母蒸発事件」(1968)
ホームズの旧知の間柄であるフランス人デュパンがホームズに依頼をしに来ました。ルーヴルからホイッスラーの「母」が盗まれたというのです。しかしホームズはその説明からとんでもない説明を引き出し……。
全く美術館とは関係ない推理から(そもそも絵の話だとホームズ分かってない)事件を紐解き、しかもちゃんと絵の盗難事件を解決してしまうホームズさんやばいです。おまけにシュロックさん、デュパンの41年(ただし1941年)の煙突の事件の解決にも協力していたんですか……。

「すごいぞ、ホームズ!」私は叫んで、彼の義侠心と鉄壁の論理の両方にたいし、拍手せずにはいられなかった。あいにくだったのは、このとき私が両手にグラスと酒壜とを持っていたことだ。私が面目なげに急いで残骸をかたづけにかかっているうちに、ホームズは適当な衣服に着替えるために自室にひっこんだ。

相変わらずシュロックの相棒ワトニイは知性レベルが低い……。

「領主館のホットドッグ」(1970)
ホームズに敵対的なバラストレイド警部登場。
ホームズ含めこの世界のイギリス人は1968年になってもアメリカを植民地だと考えているらしいですね。毒殺事件の真相をかなり論理的に暴いているのに感心。裏の真相が今回は上手く出来ています。

「ブライアリ・スクールの怪事件」(1973)
修学旅行中の学生の間で飛び交っていた「LSD」云々なる暗号の意味とは。
安定の暗号物。ホームズの与えた解決策がある意味功を奏したと言えるような。ただ、ちょっとワンパターンに過ぎるかなー。暗号物が多過ぎますね、この短編集。

「二輪馬車の身代金事件」(1973)
二輪馬車が盗まれ、またしてもマーティ教授の影を嗅ぎ取ったホームズは、マーティ教授に忠告をします。
誤字だらけの暗号に取り組む片手間に、事件を鮮やかに解決。マーティ教授はさぞやホームズに感謝していることでしょうが、まぁ内容的には普通。

「大トレイン盗難事件」(1974)
トレイン卿が襲われたという目撃情報。屋敷に向かったホームズはミス・アイリーン・アドルネと出会います。
本書ベスト、これはかなり面白いです。雪の中の足跡2人組を2人が追いかけるとか(なんてベタなんだ)、アドルネの登場とか、デュパンからの小包とか、あちこちに小技が効いています。

「ブラック、ピーター事件」(1974)
ピーター・ブラックが持っていた暗号で書かれた電報の意味とは。
久々に、最後まで電報の真の意味が分からないタイプ。とはいえ、真相の面白味に欠けます。バラストレイド警部の名前が今度はレストライド警部になってるんだけど何ででしょう。そういやこの短編集、ハドソン夫人の名前も安定していないような……。

書 名:シュロック・ホームズの回想(1974)
著 者:ロバート・L・フィッシュ
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 42-4
出版年:1979.05.31 1刷
     1981.05.15 2刷

評価★★★☆☆
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