モンマルトルのメグレ
『モンマルトルのメグレ』ジョルジュ・シムノン(河出文庫)

酔っぱらって警察に現われた踊り子アルレットがしゃべったことは出たらめではなかった――彼女は自宅で絞殺死体となって発見され、彼女が殺されると予告した伯爵夫人も、同じ手口で……。彼女が口にしたオスカルとは何ものか。アルレット‐オスカル‐伯爵夫人を結ぶ線は? モンマルトルを舞台に、司法警察の捜査網は謎の男オスカルをしだいに追い詰めていく……。(本書あらすじより)

久々にメグレを読みたくなったのでこれを。秋冬はメグレのパリが似合いますねー。75作中36番目の長編ですので、まぁ中後期の作品でしょうか。
メグレを読むのはまだ4つ目なんですが、これが今のところ一番良いです。すっっごくいいです。メグレの感傷的なところが、事件の中心となるキャバレーのしんみりとした雰囲気と見事に合わさって、何とも言えない美しい読後感を与えてくれるのです。シムノンはやっぱりプロとして、上手い作家なんですね。いやぁよかったよかった。

キャバレー〈ピクラッツ〉の踊り子アルレットが、隣の席の男たちが殺人事件を計画する話をしていたと警察に言いに来ます。ところが、途中で気が変わったのか証言を取りやめてアルレットは帰ってしまいます。その後アルレットは自宅で絞殺された状態で見つかり……。

という具合に、なかなか魅力的な冒頭。普通の警察小説ならアルレットが聞いた「伯爵夫人の殺人計画」に焦点を当てて、この犯罪の阻止だか何だかになりそうなものですが、そうではなく、メグレはひたすらこのアルレットという踊り子がどういう生活を送っていたのか、そればかりを調べていきます。
面白いことに、メグレはだんだん捜査を部下に任せて、自分は毎晩のように〈ピクラッツ〉に入りびたり、その主人や踊り子たちとの会話を楽しむようになるんですね。この豪華ではないけどそこそこきちんとしたキャバレー、ピクラッツの場面が本当にいいんですよ、本当に。酒を飲みながら、ぐだぐだと話すだけ。最終的にモンマルトルの街を拠点にしているにもかかわらず全く存在が不明な「見えない人」風犯人の存在が浮かび上がるんですが、それでもメグレはピクラッツで主人と話しながら部下からの報告を電話で待つだけ。この雰囲気はたまりません。ぜひ読んで味わってみましょう(宣伝)。

ちなみに犯人はなんかたいそうな感じを醸し出されはしますが、結局何一つ正体が明かされないまま話は終わっちゃうので。そのへんはマジでどうでもいいのでした。なんていい加減な結末なんだ……。冒頭に出て来る街頭の警官が実は犯人なんじゃとかそういう余計な疑いを抱いた俺はいったいどうすれば。

それで、この殺された踊り子アルレットには実はベタぼれの男がいてですね! しょっちゅう会いに来ていて、結婚まで言っていた人物。そいつの正体にメグレは早々と気付くんだけど、この男が本当にいいんですよ! ラスト数ページ、彼に命令を出すところからのあの畳み! 泣かせるぜ!
新任の踊り子と、その求婚していた男と、ずっとメグレと話をしていた主人と、ピクラッツの雰囲気。そうしたものがすべて合わさってこう素晴らしいラストなんですよほんと素晴らしいんですよ。そしてラスト一行がちょこっとふざけて終わり。250ページの文庫だけど、シムノンはやっぱり職人芸のプロ作家らしく、しっかりとまとまりをもった作品を魅せてくれるのです。いいなぁ。

というわけで、これはおっすすめです。いいぞー。渋くフランスの警察小説に浸りたいときにぜひ。メグレは初期もすごくいいということなので、こちらも買い集めないと……全然見かけないけど……。

書 名:モンマルトルのメグレ(1950)
著 者:ジョルジュ・シムノン
出版社:河出書房新社
     河出文庫 シ-2-3
出版年:1982.10.04 初版
     2000.05.02 新装版初版

評価★★★★★
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