もう年はとれない
『もう年はとれない』ダニエル・フリードマン(創元推理文庫)

捕虜収容所でユダヤ人のあんたに親切とはいえなかったナチスの将校が生きているかもしれない──臨終の床にある戦友からそう告白された、87歳の元殺人課刑事バック・シャッツ。その将校が金の延べ棒を山ほど持っていたことが知られ、周囲がそれを狙いはじめる。そしてついにわたしも、孫とともに宿敵と黄金を追うことになる……。武器は357マグナムと痛烈な皮肉、敵は老い。最高に格好いいヒーローを生み出した、鮮烈なデビュー作!(本書あらすじより)

ちょっと話題になっていた今年の創元推理文庫です。あらすじの通り、よぼよぼの老人が主人公。どれくらいよぼよぼかというと、パンチを打つと自分の方がけがをするくらいにはよぼよぼです。この手の老人ものってコミカルなものが多いですが、むしろこれは辛辣な皮肉をまき散らしながら、淡々と老いの苦しみ・身体の限界を描きつつ、黙々と捜査していく、というもので、設定はかなり個性的。クソジジイのクソジジイっぷりを何の躊躇もなく前面に押し出し、それでいて孤高のハードボイルドさを演出させるとは、なんとまぁ心憎いのでしょう。

ナチの逃亡犯の金塊を探すストーリーだとか金塊をめぐる連続殺人事件だとかいうのが主軸ではありますが、ぶっちゃけ普通で、ここだけ抜き出すと何も面白くありません。ありきたりなハードボイルド的展開もいいところです。ところがバック・シャッツを主人公に置き、出しゃばりだけどバックのことを大切に思っているバックの孫を物語に投入することで、途端に面白みが増していきます。この2人の掛け合いも当然いいんですが、そもそも移動すらやっとという感じの人が主役なわけですから、捜査していくだけで話になるんですよ。老人について特集するテレビ番組など、バックの皮肉な目線を際立たせる小道具もなかなか上手いです。
孫とは異なり、バックは捜査に乗り気ではない、というのが、この作品のいいところ。そんな数十年前のナチスの敵だとか、恨みこそあれど探しに行く方が大変だ、というわけ。ただ、奥さんが転倒事故を起こしてこの先老人ホームに行かなければならなくなる、みたいのが出て来てからバックは金塊探しに乗り出しますし、孫に殺人の疑いがかかってからはさらに積極的に行動を開始します。などなど、きちんとジジイの動機付けをしているのもグッド。ナチスとか大きな社会派みたいな展開には持っていかず、あくまでバック・シャッツというジジイ個人を中心に据えた展開には好感が持てます。

それでまぁ、ほどほどの意外な犯人とガツンとした締め方が、これまたまぁありそうな感じなんだけど、これもバックだから許されるし、意味があるのかなと。そのあと上手くいったのは都合いいかなというか流したなと思いますけどね。設定の個性的なところと比べてストーリーが模範的すぎるのは、個人的には少し惜しいかな。もっとぶっ飛んでもいいのに。
ただ、突き抜けた傑作感はないけど、これは非常に良い創元推理文庫というか、ハードボイルドだと思います。あらすじ・設定にひかれた人は読んで損はないと思いますよ。

書 名:もう年はとれない(2012)
著 者:ダニエル・フリードマン
出版社:東京創元社
     創元推理文庫 Mフ-29-1
出版年:2014.08.22 初版

評価★★★★☆
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