ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密
『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』トマス・H・クック(ハヤカワ・ミステリ)

「ジュリアン・ウェルズという真摯な作家がいた。あの日、彼は自殺した――彼はかけがえのない友だった」犯罪・虐殺を取材し、その本質を抉る作品を発表したジュリアンは、死の直前もロシアの殺人犯に関する資料調査に没頭していたという。執筆意欲のあった彼がなぜ死を選んだのか?親友の文芸評論家フィリップは、やがて友の周囲でかつて一人の女性が行方不明になっていたことを知る。フィリップはジュリアンの妹とともに手掛かりを追うが……。友情という名のかたちのないものをめぐる、巨匠の異色ミステリ。(本書あらすじより)

ようやく教育実習が終わりまして、えー、感想書きに戻ることが出来るわけです。ちなみに現時点で20冊、感想書きがたまっています。ひぃ。
クックは今年の6月に『夜の記憶』を読んだのが初で、で、これがまぁド傑作だったわけですね。というわけで、今年のクックの新刊もいざ読もうと思ったのです。『ローラ・フェイとの最後の会話』『キャサリン・カーの終わりなき旅』に続くタイトル人名シリーズ(というのかは知りませんが)。原作は邦訳順ではなくて、キャサリン・カー、ローラ・フェイ、未訳のThe Quest for Anna Klein、そしてこのジュリアン・ウェルズ、の順番です。

親友ジュリアンが自殺した理由を調べるために、評論家フィリップは彼の足跡をたどり、世界中を旅することになる、という話。ジュリアンは過去にある「罪」を抱えていたようですが、それが何だか分からなく、フィリップとジュリアンの妹は、彼の行った場所を巡り始めます。作家として彼が過去に扱った題材は、いずれも海外の虐殺事件や悲劇ばかり。フィリップたちはそこに出向き、ジュリアンが取材の過程で話した人と会い、少しずつ、ジュリアンの秘密を探っていくのです。

めっぽう面白かったのですが、表現しにくいです。まぁ、異色ミステリとまで言っていいのかは分かりませんが、あらすじにある「友情という名のかたちのないものをめぐる」ミステリ、というのがまさに言い得て妙。自殺した作家ジュリアンと、主人公フィリップの友情物語としては、これ以上ないってくらい美しい物語なのです。決して美しくない真実が、慎重に、切なく、ゆっくりと暴かれていきます。つーか文章がうますぎるわ。

友情物語として見ると、とりあえず278ページのジュリアンの友達よ、ってとこがもうやばいし、終章の書き方がさらにやばいですよ。だってあれですよ、表面的には親友でも、決して理解しあえていなかったであろうフィリップとジュリアンは、ジュリアンの死によって真の友人となるんですよ。何だよラスト読んでどうしろっていうんですか。この最終章があるからクックは”小説家”なんですね……すごいね……。
ジュリアンの過去の罪とは何なのか、という謎解き要素は濃いけど、結構バレバレで意外性自体はは薄いです(伏線すごく多いんだけどね)。正直素直にだまされたかったかなという気がしますが、でも、それでどうこうという話じゃないし、むしろそこへ至る道のりを読ませる小説なんだと思います。

で、そういうのが、抑えた残酷さと冷徹さを備えたクックの文体で語られるわけじゃないですか。オールタイム悲劇目白押しで、描かれる内容はしんどいのに、ぐいぐい読ませるのです。それで結局描かれるのは、どれだけ悲惨なことを経由しようが、友情なんですよ。すごい。この人はべらぼうにうまいよ。

とまぁこれだけ褒めてるのに個人的には70点くらいなんですが、まぁクックという作家のすごさを感じる一冊でした。万人におすすめしたくなるようなものでもないですが、いいものです。

書 名:ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密(2012)
著 者:トマス・H・クック
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ 1880
出版年:2014.02.15 1刷

評価★★★★☆
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