ミステリマガジン700 【海外篇】
『ミステリマガジン700 【海外篇】』杉江松恋編(ハヤカワ・ミステリ文庫)

日本一位、世界二位の歴史を誇るミステリ専門誌“ミステリマガジン”の創刊700号を記念したアンソロジー“海外篇”。一九五六年の創刊当時から現在に至るまでの掲載短篇から、フレドリック・ブラウン、パトリシア・ハイスミス、エドワード・D・ホック、クリスチアナ・ブランド、ボアロー&ナルスジャック、イアン・ランキン、レジナルド・ヒルら、海外の最新作を紹介し続けてきたからこその傑作がここに集結。全篇書籍未収録作。(本書あらすじより)

えーと更新が遅れていました。すみません。29日まで教育実習でめちゃくちゃ忙しくてですね。というわけで、今月いっぱいはほとんど感想を書けないと思います。またどんどん感想が貯まってしまうな……。

さて、今年頭に出た、ミステリマガジン創刊700号記念アンソロジーです。ミステリマガジンに載り、その後短編集など書籍に収録されていない短編を集めたもの。海外篇の編者は杉江松恋氏で、国内篇が日下三蔵氏です。ちなみにSFマガジン700の国内篇と海外篇も出ています。やるな、早川書房。
しかしひねくれた読者は思うのです。書籍未収録ってつまり傑作があらかた抜かれた後のスーパーの売れ残りみたいなものばっかり集めているんじゃないのと。さらにひねくれたブログ主は思うのです。杉江さんのベストチョイスは翻訳ミステリー大賞シンジケートの書評七福神なんかを見ているとどうも合わない気がするから、今回だってそうなんじゃないのと。

結論から言うと、ロバート・アーサー「マニング氏の金のなる木」という超超ナイス作品はあったのですが、これ以外はまぁ面白いよねってくらいで、突き抜けた作品がないのが惜しいなという感じです。これはね、売れ残りだから、というわけじゃないと思うんです。書籍未収録ったらとんでもない量がありますし。で、杉江さんと好みが合わないからという可能性は、えーと、まぁいくつかの短編を見る感じだとそれは理由の1つかもしれないですけど、たぶんもっと大きな原因があって。
ちょっと目次を見てみましょう。

【収録作品一覧】
「決定的なひとひねり」A・H・Z・カー/小笠原豊樹訳
「アリバイさがし」シャーロット・アームストロング/宇野輝雄訳
「終列車」フレドリック・ブラウン/稲葉明雄訳
「憎悪の殺人」パトリシア・ハイスミス/深町眞理子訳
「マニング氏の金のなる木」ロバート・アーサー/秋津知子訳
「二十五年目のクラス会」エドワード・D・ホック/田口俊樹訳
「拝啓、編集長様」クリスチアナ・ブランド/山本俊子訳
「すばらしき誘拐」ボアロー、ナルスジャック/日影丈吉訳
「名探偵ガリレオ」シオドア・マシスン/山本俊子訳
「子守り」ルース・レンデル/小尾芙佐訳
「リノで途中下車」ジャック・フィニイ/浅倉久志訳
「肝臓色の猫はいりませんか」ジェラルド・カーシュ/若島正訳
「十号船室の問題」ピーター・ラヴゼイ/日暮雅通訳
「ソフト・スポット」イアン・ランキン/延原泰子訳
「犬のゲーム」レジナルド・ヒル/松下祥子訳
「フルーツセラー」ジョイス・キャロル・オーツ/高山真由美訳

見てくださいこのそうそうたるラインナップ。なんと、誰一人聞いたことがない作家がいません! 超有名人! 単独で短篇集がとっくに編まれているような面々ですよ、これ。
ま、HMMの歴史を示す短編集という意味ではこの方がいいかなというか、仕方ないなというか、あと売れなきゃならないのでそうだろなとは思いますけど、もっとあらゆるところから集めたら、かなり質は上がったのではないかという気がします。

というわけで、以下個別に、ごくごく簡単に感想を。ベストはさっきも言いましたがロバート・アーサー「マニング氏の金のなる木」、これは傑作よ。感動ものに弱いからね、俺は。

「決定的なひとひねり」A・H・Z・カー(1943)
とある地主が、3人を殺した妻のことを語る。
非常にストレートな構成で、冒頭に述べられた結末に向けて押し込み強盗を受けた顛末が物語られます。最後が皮肉で良いけど、あくまで小品という感じかな。「ひとひねり」はツイストのことではありません(もちろん)。

「アリバイさがし」シャーロット・アームストロング(1965)
強盗の容疑をかけられた気高き老婦人、ミス・ピーコックのアリバイを調べる話。
読んでいてむちゃくちゃ楽しいのです。この作家は善意を描くのがうまいですねぇ。しかし結局どういうことだったのか、読み終わってもよく分からない……どなたか教えて。

「終列車」フレドリック・ブラウン(1950)
なんだこれと思いながら読み終え、やっぱりどういう話なのかよく分かりません……俺は短編には早すぎる……。というわけでこれについてはあらすじなしで。

「憎悪の殺人」パトリシア・ハイスミス(1965)
周囲の誰をも憎んでいる郵便局員アーロンの殺人計画。
話の方向性が分かってからかなり面白く、どう終わるのかなと期待したけど、まぁそのまんま終わっちゃいましたね。憎悪に対する善意のほのめかしが上手い作品。

「マニング氏の金のなる木」ロバート・アーサー(1966)
銀行横領で金を盗んだマニング氏は、捕まる前にある場所に金を隠し、出所後、それを取りに行くが……。
傑作。最初から最後まで綺麗につながっていて気持ちがいいです(ちょっとアメリカ臭強いけど)。オチの付け方も小気味良いですね。うん、楽しい話。

「二十五年目のクラス会」エドワード・D・ホック(1964)
レオポルド警部もの。25年ぶりのクラス会開催を機に、レオポルド警部は卒業前に起きた水死事件の捜査を始める。
はっきり言って文章が下手くそなホックが、なぜか上手いレオポルドシリーズ。感傷的な文章とそこそこのトリックのバランスが悪くありません。レオポルド警部ものの短編集『こちら殺人課!』がぜひとも欲しくなります(あれ珍しいから困っちゃうな)。

「拝啓、編集長様」クリスチアナ・ブランド(1968)
ブランドから編集長あての手紙に同封されていた気が狂った女による手紙(ややこしい)。
相変わらずエグい話を書くのですよ、この作家は(苦手)。しかしこの2人の関係はなんなんでしょう。
ブランドって現代に生きていたら新本格ブームに乗ってそうだな、と思いました。

「すばらしき誘拐」ボアロー、ナルスジャック(1970)
大金持ちの毛皮商ベルトンが、妻を誘拐されて喜ぶ話。
おフランスらしく小洒落た読みやすい作品で、きれいにまとまっています。ただ、警察がなんかいい加減だし、ベルトンの行動にも何となく不満が残るなど、ネタはいいのに若干物足りなさを感じますね。

「名探偵ガリレオ」シオドア・マシスン(1961)
アリストテレスの学説を否定したことで何者かの脅迫を受けるガリレオ。彼はそれに立ち向かおうとピサの斜塔で公開実験を試みるが、そこで不可能犯罪が……。
雰囲気も文章もトリックもほぼ(ダメな)ホック。期待せずにガリレオ探偵を楽しめばいいのかな。マシスンの過去の偉人名探偵物短編集『名探偵群像』がちょっと読みたくなりました。

「子守り」ルース・レンデル(1991)
ネルが子守りをしている子供ダニエルは車が大好きな子だった……
ってだから俺は子供が出てくる短編が苦手なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!(バンバン)
後半のいやらしさが上手いけど、ここで話を終わらせてしまうのはもったいない気もします。

「リノで途中下車」ジャック・フィニイ(1952)
ぎりぎりの資金を手に妻とシスコに向かう男が、うっかりカジノに入ってしまう話。
ギャンブル物ってはらはらし過ぎるから苦手なんだよなぁ。話はやや平凡で、夢がきらきらしたとことかフィニイっぽいけど、フィニイはもっとやれる子!って何の根拠もなく考えてました。第3短編集とか出せばいいと思うのよ、フィニイは。

「肝臓色の猫はいりませんか」ジェラルド・カーシュ(1946)
肝臓色の猫が居座り続ける話。
なんじゃこりゃ、死神? それよりこの短編の初出誌がどういう雑誌なのかが気になります。〈猫〉とかなんとか。

「十号船室の問題」ピーター・ラヴゼイ(2000)
ジャック・フットレルの乗るタイタニック号で、完全犯罪がもくろまれる。
歴史ミステリと船に強い作者の設定の勝利としか言いようがないですね、これ。トリックその他はほどほど、というかまぁどうでもいい感じ。映画の『タイタニック』も意識しているのでしょうか?

「ソフト・スポット」イアン・ランキン(2005)
刑務所の手紙検閲官デニスが、ある囚人あての手紙に嘘が書かれていることに気付く話。
非常にまとまりがよい短編で、純粋に質が高いですね。ひねりもきいているけど、それよりデニスのキャラクターがちょうど良いです。延原泰子さんによる訳がこれまたうまいんだなぁ。

「犬のゲーム」レジナルド・ヒル(2003)
パブで知り合った犬の飼い主仲間と、とあるゲームに戯れるパスコー。ある日、そのゲームの内容が問題となるような事件が起き……。
このアンソロって原則ノンシリーズから取るか、ちょっと外れたところから取る(レオポルドとか)と思っていただけに、ここでいきなり普通にシリーズが出て来たので驚きました。やっぱパスコーって読んでてイライラするので嫌いです。おめでたすぎます。本格短編としてはよく出来ているんだけど。

「フルーツセラー」ジョイス・キャロル・オーツ(2004)
シャノンは兄に呼ばれて亡くなった父の家に向かった。兄は電話口で13年前の少女行方不明事件をなぜかほのめかしているが……。
ぐぇぇやっぱおれはオーツ苦手。なんだってこんな酷い終わらせ方を思いつけるんですかこの人は。人間が怖いよ。

書 名:ミステリマガジン700【海外篇】(1943~2005)
編 者:杉江松恋
出版社:早川書房
     ハヤカワ・ミステリ文庫 402-1
出版年:2014.04.25 1刷

評価★★★☆☆
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